北欧の国・アイスランドは、僕にとってはとりたてて行きたい国ではなかった。夏期を除いて飛行機でしかアクセスできない、移動にはレンタカーが欠かせない、物価がすごく高いなど、気にかかることはいろいろあった。しかし、妻のゆっきーは、こんな機会でもないと人生最北端の地を訪れられないからとアイスランドを調べていて、中でも毛糸屋めぐりと、観光スポットとして知られたブルーラグーンに行くのを楽しみにしていた。日本で出会った世界一周経験者が最もおすすめしていた宿も、アイスランドにあった。そんなわけで、チームシマでは日本を発つ前から、アイスランドを訪れるのは共通認識のようになっていた。
この国のイメージを聞いて、真っ先に思い浮かべるのはオーロラだ。アイスランドの9月下旬は、季節的には短い秋のシーズンにあたり、オーロラの出現は期待できなかった。ただ、日が昇っている時間はまあまあ長く、寒さはそれほどでもなく、旅しやすいギリギリの季節だろうとは踏んでいた。
アイスランドは5泊6日の予定。その日に泊まる予定の宿の場所をもとに行程を決めた。
イギリス・ロンドンからアイスランドへは3時間ほど。それにしても、上空からアイスランドの海岸線を見ると、人家が見えないことはなはだしい。人が住める地なのか。
ケプラヴィーク国際空港に近づいてきた。先の海岸線とは違って住宅が広がっていた。それでも、空の玄関口がある街とは思えないほど、のどかな光景のように感じた。
空港に着いて入国審査もすんなりと終了。空港はモダンで洗練された雰囲気だった。レンタカー店は空港から少し離れていて、待ち合わせの方法がよく分からず、電話で連絡すると、空港の駐車場まで迎えに来るとのこと。
建物の外に出ると、日本なら地方空港によくありそうな雰囲気。あるいは、規模が大きめの郊外のホームセンターのような感じだった。
レンタカー店に着き、手続きすると、事前にネットでかけていたレンタカー保険は効力がないというので、しぶしぶこの店で23,000クローネ(約24,000円)もする保険をかけた。いや~、レンタカー代(約14,000クローネ)よりもはるかに高いんっすけど…。これで保険は大丈夫と言われたものの、後々、大トラブルが発生することに。
借りた車はフィアットのパンダの白色で、自分でギアチェンジが必要なマニュアル車なのに加えて左ハンドル。しかも、ギアのつなぎに癖があり、1速から2速に入りにくかった。いつぶりか思い出せないほど久々のマニュアル車の運転で、車の癖もあってとてもやりづらく、最初はエンストしまくり。しかも、運転しだすとカタカタとうるさい音が鳴るありさま。車輪の回転軸の部分がおかしくなっているようで、5泊6日の滞在の最後まで持つのか、不安にさせられた。写真は滞在4日目、アイスランド東部を走っていたときの白パンダ。
車を借りると空はすでに暗くなっていて、さらに環境は厳しかったが、何とか近くのスーパーにたどり着き、買い物をしてから空港にほど近いところにある宿「BASE HOTEL」へ。アイスランドのスーパーは、思っていたよりかは物価が安かった。ホテルの部屋は小ぎれいで可もなく不可もなく、といった様子。
宿には自由に使えるキッチンがあって自由度が高く、2人で晩ご飯のラーメンをつくって食べた。初日から疲れが顔に出ていて、写真を見返すと「大丈夫?」と自分で尋ねてしまいそう。
翌日、こちらは元気そうなゆっきーとともに、めずらしく朝から腹ごしらえ。普段、朝食は食べていなかった。この日の最終目的地は北部の主要都市・アークレイリで、最短距離でも約430キロ、効率よく進んでも6時間以上はかかる遠い道のり。
宿を出たのは予定より遅く9時30分ごろになっていたが、このころは晴れていた。明るくなってから泊まっていたホテルを改めて見ると、かなり横長の建物だった。
車で走りだすと、低い空から暗雲が漂ってきた。
そう遠くない山の頂上は雪化粧。寒さもそれなりで、ノーマルタイヤで大丈夫だろうか。激しく雨が降りだすなか、宿から首都・レイキャビクを通り越して、約120キロ離れたこの日最初の目的地、毛糸屋へ向かった。
店が開く予定の11時過ぎに着いたら、非情にも9月16日から冬の営業スケジュールに変わっていた!木、金、土の13時から17時までしか開いていないという。訪れた9月27日は木曜だったものの、雨の中、他に何もなさそうなこの地で2時間待つのは諦めて先に進むことにした。
空は山の天気のように移り変わりが早く、この日は雨や曇天と晴れ間を繰り返した。ちなみに、アイスランドでは橋に差しかかると車1台分ぎりぎりの幅しかなくなるところが多かった。車の交通量は、首都圏など一部を除くとかなり少なく、困るケースはほぼなかったものの、橋を渡るときはスリリングだった。
アイスランド2日目には、何とか車の運転にもなじんできた。この国の道は幹線道路でも片側1車線の区間が長く、日本でいうなら淡路島でのほほんと運転しているような印象。その点は気楽だった。
次に向かった先は同じく毛糸屋の「KIDKA Wool Factory Shop」。ここはオープンしていて一安心。
アイスランド産の毛糸と戯れるロバ太郎。下手すると毛糸に埋もれてしまいそう。
セーターも販売していたが、デザインがイマイチで、日本人などアジア系には似合わなさそう。価格を差しおいても買う気は起こらなかった。
出発後、途中のバス停で休憩。変なモニュメントが置かれていた。路線バスとはいっても、この辺りでは1路線につき1日1、2本といった貧弱な状態。人口に見合った本数なのだろうが、これでは自家用車に頼らざるを得ない。
さらに進み、アークレイリに近づくとまた雪景色に。今度は路肩まで雪が!
慎重に運転を続けていると、アークレイリには日が明るいうちにたどり着き、エアビーアンドビーで2泊分を予約していた宿「Guesthouse Akureyri」に到着。スタッフはとても気さくで、アイスランドで感じていた人の冷たさのようなものが消えていく感じがした。おそらく、最初のレンタカー店での印象が強すぎたのだろう。予約していたのは屋根裏のような部屋で、思っていた以上にきれいで、室内は暖かく、居心地がよかった。
部屋の窓から見た景色。雰囲気のある田舎。ちなみに、世界一周経験者が最もおすすめしていたアイスランドの宿はこの時期、ずっと閉めたままで、宿泊できず。
明るいうちに着いたこともあり、町を歩いてみた。アークレイリはアイスランド第2の都市とはいっても人口わずか2万人足らずで、9月下旬ともなると店もさほどやっておらず、人通りも少なかった。ビルの巨大な壁面絵画が異様に目立っていた。
こんな極北に近い町でも、富士フイルムの壁面広告を見かけた。アフリカ・チュニジアのスースで同じ富士フイルムのネオンサインを見かけたこともあったし、日本企業の活動は今でも実にワールドワイドだと思う。
その富士フイルムの壁面広告があった建物には、寿司屋も入っていた。ランチの食べ放題(all-you-can-eat)で2,500円以上するものの、この店で350mlサイズのアサヒスーパードライを注文するだけで1,500円はかかることを考えるとかなり安い。この国の物価は、例えばガソリンならどこのスタンドでもだいたい1リットル=240円あまり、という具合でとても高い。ゆっきーいわく、毛糸は安いそうだ。そりゃ、アイスランド産を日本で買うより現地で仕入れる方が安いわな!
と、アイスランドの超高い物価の話にオチをつけたところで、散歩も終えて宿に帰ってきた。出入り口もおしゃれにデザインされていた。
そんなわけで、この日の晩ご飯はスーパーで調達したもので自炊。心なしか、僕は前日より元気があったようにも見える。
この日、訪れたスーパー「BONUS」はアイスランド全土で展開していて、黄色がブランドカラーでオリジナル商品を展開していたり、変なマスコットキャラクターを採用していたりと、アイスランドには似つかわしくないアクの強さで目立っていた。あまりのセンスで撮影する気が失せたからか、なぜか手元に写真が残っていない。チームシマがBONUSで買い物をしたのはこの日の1回きりだった。先にも触れたが、スーパーの物価はアイスランドではまだマシなほうで、ビールを買う余裕もあった。
翌日はアークレイリにとどまり、車で景勝地をめぐった。お昼近くに出発すると、遠めの山は雪景色。
最初の目的地は、アークレイリから35キロほどのゴーザフォスの滝。到着後、まずは車内で腹ごしらえのカップめん。
滝を見た。
この日は風が強く、動画を撮ると風切り音がすごかった。
そんな中、360度カメラをぶん回してみた。
チームシマでツーショット。
今度はロバ太郎の単独で。
次の場所に車で向かう途中、いい感じで空と戯れるビーバーのはじめ。
僕が映り込むと、神々しかった空が一変、中年のおっさんの微妙なフォトに。
次の目的地、ミーヴァトン湖周辺のナウマスカルズ峠に到着。湖は溶岩の噴火によってつくられ、峠のあたりは地熱地帯となっている。そのため、こんな幻想的な光景を目の当たりにできた。
蒸気が噴出していた。
蒸気にあおられ、あっぷあっぷのロバ太郎。
種明かし。こんな感じで撮影!
負けじと遊んでみた。
さらに遊んでみた。
動画にも挑戦。
ここでもチームシマでツーショット。風は相変わらず強かった。
続いて向かったのはデティフォスの滝。雪景色の中の悪路となり、慎重に運転しながら進んだ。そして、これが僕の首巻を確認できた最後の写真になった。
今度の滝はちょっとした山岳地帯に位置していて、向かっているうちに天気は快晴になったものの、アイスランド滞在中でも最も風が強く、間近で滝を見るのを諦めたほど。
この滝にいるとき、ゆっきーが車のドアを開けようとすると、風にあおられて強烈な勢いでドアが開いてしまい、その後は助手席のドアを開閉するたび、ギーコという音が鳴ることに。外にいると、僕が着ていたジャケットは風で思いっきり膨らんでいた。
動画ではこんな感じ。撮影するのもやっとで、気をつけていないと吹き飛ばされそうだった。ここからは早々に退散した。
チームシマ2人の人生における最北到達点に限りなく近い地、ハトルビヤルトナルスタジルのあたりで眺めた景色。何とも幻想的で絵画的だった。
そこから少し南に行ったあと、港町のフーサビークの町外れから、またもや絵画的な景色が見えた。フーサビークからは様々なクジラが見えて、ホエールウォッチングが盛んらしいのだが、今はそういう季節ではないのか、この日がたまたまそうだったのか、クジラがいそうな様子には見えなかった。
宿に戻る前にスーパーへ寄った。そこで得た戦利品と戯れるロバ太郎。アイスランドはヨーグルトの種類が豊富で、価格はそれほど高くなくおいしかった。
帰り道、さらに神々しい景色は続いた。
この日の夜は、暗くなりきらないような幻想的な空で、思わず写真に収めた。まさか、翌日の夜は想像を超える夜景が見られるとも知らずに。
そして、ない!ゆっきーが作ってくれた首巻がなくなっていることに気づき、真っ青に。レンタカーを止めてあった駐車場まで行って探したものの、ない!夕方、車を運転中、車内が暑くなったので首から外していた。宿に戻る直前、ガソリンスタンドで給油したときに落っことしたのだろうか。一気にがっくりときた。