アイルランドのレンタカー旅も後半戦。前回、イギリス領の北アイルランドに少し足を踏み入れ、世界遺産のジャイアンツ・コーズウェイをのぞいたチームシマは、アイルランド側に戻って首都のダブリンに向けて出発した。
この国のダブリン空港でレンタカーを借りてからは、首都を通り抜けてまずは南、続いて西、そして北と移動しながら、主に豊かな自然を見てきた。心が十分に満たされていて、もはやダブリンを見て回る必要はないような気がしていた。
しかし、実際にダブリン中心地に足を踏み入れると、ベルリンやパリといった西欧の主要都市とは違って街がコンパクトにまとまっていた。歴史の重みとその中からしみだしてくる新しさがぎゅっと詰まったような、居心地の良さそうな街で、寄ってよかったとしみじみ思う。
アイルランドの旅のルートはこちら。最後となる今回は紫色の部分の道中を紹介。
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まずはダブリン郊外をめざす
この日は遅めの朝11時過ぎに出発。宿泊先だったキャリガンズからダブリンへは、しばらく北アイルランドを通る道。一応、異国ということになり、アイルランドでレンタカーを借りる条件にも、北アイルランドも通るかどうか聞かれていた。そんなこともあり、北アイルランド領内では間違っても事故などをしないよう、いつにも増して気をつけていた。
写真は、そんな北アイルランドを抜けた後のエミーベールという町の様子。この日は晴れたり曇ったりで、前日までの雨がうそのよう。ロングドライブを楽しみつつ、南へと向かった。
国道と高速道路を乗り継いで北からダブリン市内に入り、日本でいえば首都高の中央環状線のような環状路線の高速道路M50号線に入って南西の方向へ。その中央環状線で例えると、葛飾区の小菅ジャンクションから渋谷区の大橋ジャンクションの位置まで走って高速道路を下りた。そこからほど近いところにある駐車場に車を止めた。出発してから3時間半ほど経っていた。
大橋ジャンクションといえば、渋谷から目と鼻の先の大都会だが、今回降りた「レッドコー」(Red Cow)というエリアは、ダブリン中心部まで路面電車で20~30分かかろうかというところにあり、写真のとおり、のんびりとした雰囲気。なぜここに車を止めたかというと、ダブリンの路面電車「ルアス」(Luas)のパークアンドライドが利用できる電停があったからだ。かかった費用は駐車場代の4時間2ユーロと往復の運賃5.4ユーロの2人分で、まあまあの出費だったが、ダブリンの中心部までレンタカーを運転し、駐車場を探すよりも、精神的な負担は少なかったように思う。
そんなわけで、レッドコーの電停にレンタカーを駐車し、中心部へと向かった。ルアスは現代風の低床でしゃれた車両で、金曜の昼下がりにしてはのんびりした空気が車内にも流れていた。
ダブリン中心部へ
「アビー・ストリート」(Abbey Street)という電停で降りて、ひとまず腹ごしらえに向かった。時刻はすでに15時を回っていて、チームシマは2人とも、おなかが空いていた。
歩いていると、遠目からでもよく目立つ、鋭い針のようなモニュメントが。「ダブリンの尖塔」というらしい。この街のメインストリート、オコンネル通りに設置されていて、高さは120メートルもあるとか。
続いては、恒例となった郵便ポストの撮影。おなかが空いていても欠かせないものもある。緑色のポストはあまり目にしたことがなかった。ここではロバ太郎がモデルに。ちなみに、さっきの尖塔では、ロバ太郎はしっぽだけモデルになっていた。
残す機会もわずかとなったアイルランドでの昼食は、郷土料理ではなくて、なぜかベトナム料理店「Pho Viet」で。15時を過ぎて中途半端な時間帯で選べる店が少なかった、という事情もあったが、ゆっきーはよくベトナム料理を食べたくなるらしく、しかもベトナム料理店は他の店と比べて割安に食べやすかった。
それにしても、笑顔がはじけるゆっきー。2人ともフォーと並ぶ定番の麺料理、ブンチャーを食べた。かなりおいしかったが、この日、不安定だったお腹がさらに不安定になりそうだった。店を出ると、ダブリンの繁華街を通って次の目的地、ゆっきーのお目当ての毛糸屋に向かった。
この辺りは人通りが多く、華やいだ雰囲気。そしてこの街でも日本食の店を発見した。街のこじゃれた雰囲気からして、そんな街には欠かせない(とはいっても、アイスランドの片田舎など、こじゃれていない町でも見かけてきた)日本食の店があるのも当然か。間口からして店舗は狭そうに見えたが、メニューは寿司、弁当にラーメンと一通りそろっているようだった。
ダブリン中心部を東西に流れるリフィー川に差しかかろうかという場所に、味のあるスクーターが止まっていた。後で調べたら「AJS Modena 125」という車種で、AJSはイギリス発祥の老舗ブランド。旧車の雰囲気が、歴史の重層を感じさせるダブリン中心部にマッチしていた。
リフィー川にかかるハーフペニー橋は200年余りの歴史を持つらしく、ダブリンでも特に有名な橋らしい。しかし、僕はそんなことも知らず写真を撮影。
ハトが街灯の上に乗っていて、どことなくヘルシンキで見た光景を思い出した。あのときは盛夏の青空、そしてこの日は秋真っ盛りの曇り空、と雰囲気はかなり違っていたものの・・・
ヘルシンキでのこの光景だ。このときからもう3か月も経ったとは。
信号待ちをしていたら、歩道に「LOOK LEFT」の文字が見えて、車の進入方向が分かりやすかった。こういうものを日本でも採用したらいいのに。アイルランドは日本と同じく車は左側通行だが、この道は一方通行だからこのように表示してあったのだろう。
ダジャレ?も飛び交っていた毛糸屋めぐり
そしていよいよゆっきーにはお待ちかね、毛糸屋の入った複合施設「Powerscourt Centre」。見たことのないような作りの複雑な動線の建物で、歴史も感じられて、歩いているだけで心が浮き立った。
そして毛糸屋「This is Knit」。「This is it」(これだ!という意味など)にかけているのか、それとも自信たっぷりな店なのか、分かりやすい単語ばかりのわりに、分かりにくいネーミングだった。店内は整然としていて、確かに「This is knit」と言えるほどには充実していたように思う。店を出て外へ。
ダブリン随一の観光スポット、クライストチャーチやダブリン城の近くにも来ていたものの、それらには寄らず、アイルランド最大の教会、聖パトリック大聖堂を横目に、次の毛糸屋へと向かった。
すると、途中でレンガ造りの建物群の通りがあり、1世紀ほど前までタイムスリップしたような気分に。
そして、こんなダジャレを利かせたアート(?)も。ヨーダもいる、サイレントトルーパーもいる、しかしSTAR WARSではない!先のThis is knitといい、この「STOP WARS」といい、ダブリンの人たちはダジャレ好きなのだろうか?それならきっと、僕とは気が合うに違いない。
ダブリン市街は低層の建物が多く、レンガづくりの建物も目立っていて風情も加わっており、雰囲気が抜群によかった。モニュメントも面白いものが目についた。店も充実していたし、パブの本場でもあるし、夜もいたら、おそらくもっと楽しめただろう。せめて1泊はしてみたかった。
目的の2軒目の毛糸屋「The Constant Knitter」。小ぢんまりしたかわいいお店だった。文字の色遣いがGoogleのかつてのロゴを思い起こさせた。
店内は充実。ただ、ゆっきーがほしかったブランドの毛糸はダブリンでは売られておらず、結局、この国では毛糸を買わなかった。
時刻はいつの間にか17時30分ごろになっていた。暗くなりきる前に今日の宿にたどり着きたかったので、先を急いだ。
帰りのルアス車内は行きよりも混んでいて、腕にナゾの漢字を彫っている男性がいた。ホフマン(母父馬)という名前なのだろうか。ホフマンはドイツ系の名前だけれども。途中には、ギネスビールの大きな醸造所があり、さすがは本家だとも思った。それはさておき、パークアンドライドで止めていたレンタカーまで戻り、出発した。
目的地は、ダブリン中心部から南西に約50キロのところにあるニューブリッジ(Newbridge)という街。前夜、エアビーアンドビーで見つけた宿にリクエストを送ったものの、拒否され、この日の朝に急遽、手配していた。それが、今までにはなかったくらいの当たり宿になった。
ニューブリッジの宿で
豪邸だったとか、設備が飛び抜けてすばらしかったとか、そういうわけではない。
着くとすぐに、ホストのフランシスさんが迎え入れてくれて、コーヒーやティーを入れてくれて、壁一面に写真などが飾られた部屋で、19時過ぎから23時くらいまでほぼぶっ通しで話をしながらティータイム・バータイムが続いた。
「フランシスさん」と書くと違和感があるくらいフレンドリーな人だったので、これからはフランシスと記そう。なぜ世界一周しているのか、フランシスの家族はどんな感じか、エアビーアンドビーはなぜ始めたのか、これまでにどんな客が来たのかなど。チームシマは酒を飲みながら話していたこともあり、細かい話は覚えていない。ただ、話は尽きず、宿に着く直前にチームシマ御用達のスーパー「Lidl」で買っていた3本のビールも話のさなかで消費してしまった。フランシスは酒を飲まない人だった。
フランシスには18歳年下のポーランド人の奥さん、8歳の息子がいるそうだが、奥さんとは別居か離婚をしているようで、基本的に1人で暮らしているようだった。表情が豊かで、ユーモアもあって、俳優のジム・キャリーのようでもあった。ゆっきーに言わせると、そこまでカッコよくなかったそうだが。本人不在のところでこんな話題をしてごめんね、フランシス。
エアビーを使っていると、よく「スーパーホスト」という言葉を目にする。エアビーによって優良と認定されたホストがそう呼ばれることになっており、安全性や信頼性を高めるシステムの1つとなっている。ただ、スーパーホストの宿でも部屋が快適ではなかったり、ホスト自体がイマイチだったりすることもあり、あまり当てにならないのだが、フランシスはまごうことなきウルトラスーパーホストだった。それを翌日、改めて実感した。
明けてアイルランド最終日は、朝からよく晴れた。フランシスが朝9時に朝食を用意してくれると言っていたので、その時間に起きて1階の食堂へ。
シンプルなエッグトーストにコーヒーという組み合わせで、卵のいい味とシンプルさゆえの上品さが心地よかった。
ご飯を食べながら前夜に続いていろんな話になり、宗教のこと、仕事のこと、人種のことなど、多方面の話題を話した。前日もしこたま話し込んでいたからか、連日の運転がたたってか、僕は途中から疲れてきて、フランシスの話についていくのが辛くなった時間帯もあったが、ゆっきーはいろいろと会話していた。フランシスにはゆっきーが中国人っぽく、僕は日本人っぽく見えたらしかったこともこのときに聞いた。
宗教についての話題は、外国では特にデリケートなテーマで、普段はあまり触れないことにしていたが、フランシスのオープンマインドな雰囲気もあってか、この日はカトリックの信心と最近の若い人の信心、日本の神道などを話した。そして、少し前のチュニジア、最後の滞在先でも宗教の話になったことを思いだした。あのときはイスラム教の話題が中心だったなあ・・・所変われば、などと。
僕は、形式上は仏教徒だが、実質的には「無宗教」という名の宗教を掲げていて、それでも生まれ育った環境からは、仏教や神道を背景とする何らかの概念を持っている。そういったことを自分の中に認識して、深く見つめて、腑に落ちて骨の髄までかみしめることができるようになってこそ、違う視点、あるいは相手の視点に立つ準備が万全になるのではないか、という思いがする。
フランシスの家のゆとりある庭を見ながら話をしていると、フランシスが一体どのようにして生計を立てているのか気になった。尋ねてもみたが、あいまいな答えしか得られなかった。このあたり、1泊で移動する旅人の、そして僕の英語力の限界だったのかもしれない。
この旅も20代なら、また違った形の出会いがあったかもしれないが、40代になってこうしていろんな話ができる人と巡り合えるのも、実に貴重でありがたいことだとも思った。
みたびイギリスへ
時刻はあっという間に12時近くになり、話を終えて準備をして出発。時間的には余裕があり、車中からは、ダブリン空港から発つ飛行機が見えた。数日間の曇天がうそのように、この日は青く晴れ渡っていた。空港へのルートもM50号線を使い、空港へと向かった。
ちなみに、M50号線は通行料3.1ユーロの有料区間ながら、アイルランドの他の有料区間と違って料金所が一切ない。ではどうやって精算するのかといえば、日本でいうETCのようなシステムを使える車はそれで支払い、そうでなければ翌日20時までにインターネットで支払うことになっている。レンタカー会社によっては後日精算のところもあるようだが、僕が利用した会社では特に定めがないようだったので、通った日の夜に自分のクレジットカードで支払うことにしていた。
ガソリン満タンにして返却窓口に行くと、車のチェックを簡単に終えて、デポジットのお金も返してもらってスムーズに終わった。復路のライアンエアーのチェックインは事前に済ませていたので、空港では荷物検査だけ。行きは厳しかった審査も、出国の際はイギリスと同様にノーチェックですんなりといった。次はこの旅3度目のイギリス、今度はトランジットではなく現地を回ることになる。飛行機は予定の16時より早く出発し、アイルランドに別れを告げた。
旅の情報
今回の宿
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ダブル1室 5,825円 朝食付き
設備:個別バスルーム、Wi-Fiあり
予約方法:Airbnb
行き方:ダブリンから車かバスでニューブリッジまで移動。車の場合はダブリン中心部から40~50分。住宅街の1画にある。
その他:予約できる部屋が2つあり、チームシマはNo.1の方を予約。車で数分のところにスーパーなどがあり、買い物には困らない。唯一の難点はお湯があまり温かくなかったこと。
エアビーのトップ画像が文字通りの画像(絵と言葉の組み合わせ)だったり、英語の説明文がくどかったりと、かなりクセのありそうなホストだなと思った。実際に泊まってみると、満足そして納得。もっと英語が流ちょうに話せたらな、と思わされた宿の1つ。
訪れた食事処
Pho Viet
注文品:ブンチャー2つ 25ユーロ(約3,280円)
行き方:ダブリン中心部、オコンネル通りの「ダブリンの尖塔」から北に歩いて約5分。
その他:2021年現在は「Pho Kim」という店名に変わっている。オーナーが変更になったかは不明。