イギリスのグレートブリテン島の南に行き、次にストーンヘンジを目指して西に行き、今度は東海岸を目指していたチームシマ。風船のようにあっちへふらふら、こっちへふらふらしているようにも見えたが、もちろんそれには目的があった。
イギリスをレンタカーで回ることにした際、最初に目的地に決めたのは南西部にあるブリストルの毛糸屋、そこから西のストーンヘンジともう1つ、島の中部にある「オーラソーマ」の本部だった。オーラソーマは、簡単にいえばカラーセラピーと呼ばれるもので、100種類以上あるカラーボトルから4本を選び、そこからメッセージを読み取っていく、というもの。カラーボトルは上下2層に分かれていて、ボトルを見る以外に、体に塗って用いる。それ以上のことは、追って説明したい。
イギリスのレンタカー旅はそれら目的地を結び、途中、立ち寄れるところ以外は訪れなかった。特徴的だったのは、ストーンヘンジを除いては、地球の歩き方やロンリープラネットなどでは紹介されないようなところばかり行きたかった、ということ。最初にビーチー岬に立ち寄ったのは毛糸屋のついでだったし、古城めぐりもたまたま始めたことで、そもそも古城は日本語のガイドブックではほとんど扱われていなかった。
そんなわけで、ツーリスティックさとはかけ離れてきていて、それがまた心地よかった。他の人には参考にはならないかもしれないが。
アイスランドに始まったレンタカー旅も今回で最終回。東海岸からオーラソーマ本部、そしてケンブリッジの街に行き、ロンドンに向かうまでの道中を紹介する。
Table of Contents
古城めぐりは続く
居心地のよかったアール・シルトンの宿を出て、最初に向かったのは古城シリーズの第3弾、ボルゾーバー城。イギリスで最初の都市間高速道路のM1を北に100キロ弱、進む道のりで、そこに向かう間にはレスター、ノッティンガムと、日本にいたときから聞き覚えのある地名の近くを通った。レスターは2010年代にサッカーファンだった人なら、日本人選手の動静で必ず耳にしただろうし、ノッティンガムは社会科で取り上げられる都市の1つで、郊外にはロビン・フッドの伝説の舞台もある。
我々チームシマは、そんなメジャーどころをスルーして、城に到着。駐車場に車を止めたら、隣も同じフィアット500だった。
イギリスの車は、ナンバープレートで登録地に加えて登録年も分かる。手前の車の「MT11」は、MTがマンチェスター、11が2011年3~8月の登録を意味する。僕たちの車は「WO18」、登録地は車を借りたルートンではなくイングランド南西部の最大都市ブリストルで、2018年3~8月に登録。新車かと思いきや、走り始めのときに確認したら、通算走行距離はすでに8,837マイル(14,222キロ)だった。そうはいっても、チームシマのように1回の貸し出しで1,000~2,000キロ走っていたら、10回程度であっという間に通算が15,000キロくらいになるので、新車だったのかもしれない。
あと、この2台には写っていないが、ナンバーの左端に青地でEUの欧州旗と「GB」(Great Britainの略)の文字があれば、そのまま国外でも走れる仕様で、ないものは国内仕様。他のEU諸国では国の識別部分が入っているのが普通で、こうした選択制のシステムに島国らしさを感じた。
イギリスの略し方としては「UK」(United Kingdom)の方が聞き慣れた気がするが、イギリスは公式にはGBと略されている。車のナンバー1つをとってもうんちくがいくつもあり、注目してみると面白い。
ボルゾーバー城は17世紀のイギリスの城の面影を残す、保存状態のよい大きな城で、離れても全体を写しきれなかった。ふかふかの芝生が気持ちよく、ロバ太郎もしっかりと感触を確かめていた。
この日はうっすらと雲の姿も見えたものの、前日に続いて快晴。
城の中の状態もよかった。何となく馬の置物に目がいった。
扉だけでもその美しさが見て取れ、僕は360度カメラで撮影した。
城から見た外の眺め。田園風景には緑に黄や赤が交じり、季節感が感じられた。
改めてこの城に目を向けると、前日に見てきた城よりもさらに絵になり、大いに満足。このボルゾーバー城から西に向かうと大都市のマンチェスターだが、チームシマは逆方向のほぼ真東に約120キロ、この日の宿へと向かった。
オーラソーマ本部へ
今回の宿泊先は、スケッグネスという北海に面した東海岸の港町。部屋は清潔そうで好印象だったが、夜になって衝撃がチームシマを襲った。チェックインした当初は出ていたお湯が、出なくなってしまった。お湯のタンクが空になったとか、よくありがちな単純な原因ではなさそう。
シャワーを浴びる前だったのでさあ大変、ということで宿のフロントまで伝えにいったが、夜だったためか警備員のような人しかおらず、この地方の訛りがひどくて何を言っているのかさっぱり分からずにコミュニケーションが取れない状態。
イギリス東北部のニューカッスル訛りは聞き取りづらいとはいうものの、このスケッグネスは首都からニューカッスルまでは離れておらず、東京と大阪に挟まれた名古屋のような位置にある。もちろん、名古屋のような都会ではないが。地方の港町まで来るとこんな感じなのだろうか。僕の英語力のなさもさることながら、英語の本場、イギリスでも英語が通じないとは……これならインドの客引きが使う英語のほうがまだ理解できるな、とぼう然としつつ、お湯を使うことは諦めた。
そんなこととはつゆ知らず、日が暮れる前に海沿いを散歩しようと外に出かけた。道を挟んですぐに砂浜があり、夕暮れどきのグラデーションを眺めたり、砂浜に残った大きな潮だまりと呼んでもいいのだろうか、水辺を歩いたりした。
この町では、かつて1970年代ごろまでは、桟橋やその先端に劇場があったようだが、もはやその面影はなかった。海際にちょっとした遊園地があったのと、道路沿いにビンゴホールというカテゴリーの店も見かけたのが、その名残ともいえるだろうか。あるいは、遊戯施設はイギリスの港町には付き物なのかもしれない。そして、ビンゴホールとカジノの違いはどういうところにあるのか、そしてどれほどの集客力があるのか、よく分からなかった。
海のそばのリゾート地はすでにシーズンオフに入っていて、海辺も道路沿いも人影がほとんどなく、のんびりとした風情がものさびしさを感じさせた。
宿のすぐそばのコンビニにも寄ってみると、本棚には数えきれないほどの雑誌、ゴシップ誌の山。写真と見出しに埋め尽くされた派手派手しい表紙が実にイギリスらしい、港町の店に似つかわしいと思いながら、外のものさびしさとの対比が何ともいえなかった。買い物はせず宿に戻った。
最近、問題になっていたのが僕の髪。髪を切る機会がしばらくなく、最後に刈ったのは7月下旬、ベラルーシにいるときだった。2か月余り経ち、かなり伸びてきていて、頭がはげていながら寝ぐせもつくという、みっともない状態になっていた。近いうちにどうにかしなければ。
翌日、軽く朝ごはんを取って出発。チェックアウト時に、お湯が出なかったことをフロントに改めて伝えると「今からシャワーを使いますか」と言われたが、この日は先の予定があったのでお断りして、オーラソーマ本部へと向かった。
オーラソーマ本部は宿から北西に約30キロの丘陵地にあった。地域に散在しているオーラソーマの建物のうち、まずは「Dev Aura」というオーラソーマの教育施設へ。アポイントは取っていなかったが、快く迎え入れてくれた。
いろんな国からオーラソーマを学ぶために集まってくる人たちのための教室。壁の三角や四角の棚にはオーラソーマのカラーボトルが並べられ、椅子もじゅうたんも色彩豊かに彩られていた。そして、自然採光がたっぷりと取れる天窓。緑あふれる外の景色も見えた。カラーセラピーを学ぶには十分な環境のように見受けられた。
オーラソーマのパンフレットももらった。驚くべきところは、これらのカラーボトルはとてもカラフルなのに、有機農法で作った植物やエッセンシャルオイルなど天然由来のものだけを使っていて、合成化学物質は含まれていない点。こういったスピリチュアルなものが苦手な人は多いかもしれないし、僕もどちらかといえば疎いほうだが、市中にあふれている化学物質がたっぷり入った品々と違って、このボトルのように、体や心への配慮を重ねたものを扱っている姿勢をみると、本当に顧客を大切に考えてくれているのはどちらなのか、感じ入るものがあった。
施設を見学した後、車で数分の場所にあったショップにも足を運び、末広がりにあやかった88番のカラーボトルや携帯しやすいポマンダーなどを買って、その場を後にした。ゆっきーは特に、名残惜しさを感じていたようだった。
このときのカラーボトルは後々まで使わせてもらった。僕自身、セラピーやリフレクソロジーといった系統で真っ先に思い起こされることといえば、20代から30代半ばにかけて仕事が激務だったころ、足つぼマッサージに通っていたこと。ゆっきーはセラピーなどの方面にも詳しく、僕はいろいろと教えてもらっていて、オーラソーマは日本を出発する前から親しみがあった。カラーボトルを見て癒され、香りをかいで癒され、体に塗ってまた癒されるという具合だった。
学問の香りのする方へ
イギリスの北東を目指す旅はここでおしまいとなり、南下を始めた。本当のところをいうと、今回のイギリスでのレンタカー旅では、もう1つ行ってみたかったところがあった。それは「フィンドホーン」と呼ばれる世界有数のエコビレッジの拠点だったが、場所はスコットランドの主要都市エディンバラよりさらに北、ロンドンからの距離は900キロ以上、オーラソーマ本部からも約750キロの道のりということで、日数の限られたレンタカー旅ではあきらめざるを得なかった。
チームシマは一気に約170キロ南下し、この日の宿泊予定地の近くにあったケンブリッジの街に立ち寄った。ケンブリッジ大学を見ていこうと思っていたものの、車が止められる場所がなかなかなく、少し車を降りたり、車窓から街を見たりしたあと、さらに約30キロ先の古城へと向かった。ケンブリッジは落ち着いた風情だったが、車を止めるのに苦慮したからか、長居したい気持ちにはならなかった。
この日の最後の目的地は、オードリー・エンド・ハウス・アンド・ガーデンズ。17世紀に修道院を改築して造られ、その後も改築が重ねられた城だった。いくつも城を見て、そろそろいいかな、と思いはじめていたチームシマにとっても、見ごたえのある外観だった。
簡素なパンフレットの説明を読むと、19世紀のヴィクトリア朝時代におけるイングランドの農村の邸宅の雰囲気が残っているそうで、庭も花々が素晴らしいようだが、僕たちが行った時期は、所々で土がむきだしになりながらも、丁寧に整備されていることが分かる芝生が広がっていた。
さっと見て、オードリー・エンド・ハウスを後にした。去り際、敷地のそばを流れる川を渡ろうかという場所で撮影。オーラソーマ本部を訪れたあとだったからだろうか、建造物や手入れされた庭以上に、自然の風景に目を奪われがちだった。
レンタカー旅も最終盤、イギリスのカントリーサイドを楽しめるのもあとわずか。ホッとしつつある一方、もう少しで幕引きなのが残念な感じもしてきていた。イギリスの地方は、豊かな里山風景といえばいいのだろうか、そういったものが自然な形で残っている地域があちこちで見られ、日本の地方の幹線道路を走っているとよく見かけるような、無秩序に近い無残な開発はそれほどなかったように感じられて好印象だった。
再びケンブリッジの方向に向かい、今度は北に20分ほど通り過ぎたホーニングシーという町の宿に直行。今回はオーナーが住む住宅の2階の1室を借りる形態の部屋で、エアビーアンドビーで予約していた。部屋は清潔で快適な雰囲気。
お腹が減っていたこともあり、早速、共用キッチンへ。スーパーで手に入れていたカップヌードルを共用キッチンで食べようとして、インスタントラーメン臭をまき散らさないようにと僕がドアを閉めてみたら、ドアノブを回しても空回りして、キッチン側からはドアが開かない!閉じ込められてしまった。
これは、1階にいる若いオーナー夫妻が気づくまでキッチンに缶詰めだろうか。ゆっきーは「私たち以外にまだ誰も来ていないし、扉を閉める必要なんてなかったのに!」と非難ごうごう。もっともな指摘で、反論する余地も元気もなかった。
ただ、僕はスマホを持っていたので、キッチンのドアノブが壊れていて閉じ込められたことを、エアビーのサイトを通じてオーナー夫妻にメッセージを送った。すると、数分後には男性のほうのオーナーが助けに来てくれた。気を取り直して晩ご飯。
この宿では、キッチン閉じ込め事件とともに、もう1つ特筆すべきことがあった。前日の夜、髪を切りたいと思ったばかりのタイミングで、共用のバスルームでバリカンを見つけたのだ。なぜここにバリカンがあるのか分からなかったが、この機会を逃がせば、次はいつ髪を切るチャンスが訪れるか、考えもつかなかった。えいや、とばかりにバリカンを使わせてもらうことにした。
バリカンを使用後。とてもさっぱりして、顔つきまで変わったような気がした。
翌朝、半月以上続いたレンタカー生活が終わる前に、徒歩で移動しやすいよう荷物を整理して出発。途中の道が渋滞していたこともあって、ルートン空港までかなり時間がかかったものの、無事故無違反で車を返却。車の状態をチェックする役割の人が「パーフェクト!」と笑顔で言ってくれた。
これで、アイスランド、アイルランド、イギリスと3か国にわたった17日連続のレンタカー旅も終了。ちなみに、今回のタイトル、英愛氷は英=イギリス、愛=アイルランド、氷=アイスランドの頭文字で、氷がアイスランドを漢字1文字で指すことは初めて知った。次回の投稿では、8月のノルウェーも含めた計4か国のレンタカー旅を振り返りたい。
ルートンからは、3日前に予約していたバスでロンドンのヴィクトリア・コーチ・ステーションに移動した。アイスランドに行く直前に訪れて以来、これも半月以上ぶりで、チームシマは意気揚々とロンドン市内に降り立った。
旅の情報
今回の宿
コースターズ・ホテル・アンド・アパートメンツ(Coasters Hotel And Apartments)
ラグジュアリー・アパートメント・エンスイート 37ポンド(約5,500円) 素泊まり
設備:バスルーム、キッチン、調理器具 Wi-Fiあり
予約方法:Hotels.com
行き方:ロンドンのキングスクロス駅から出発、グランサム駅で乗り換えてスケッグネス駅まで3時間余り。駅からは徒歩15分。車で訪れると3時間30分~4時間ほど。
その他:途中からお湯が出なくなるなど、設備の古さが気にかかった。
Award Winning Village (Double)
ダブル1室 5,085円 素泊まり
設備:共用バスルーム、共用キッチン、バリカン Wi-Fiあり
予約方法:Airbnb
行き方:宿があるホーニングシー(Horningsea)は、ケンブリッジ駅から車で北東に約20分。北隣の駅か北に2駅先からは車で5~10分で、こちらの方がケンブリッジ駅からよりも近い。
その他:オーナーは2部屋を貸しているようで、レビューは総計500件を超えていて、宿泊者の平均評価点が非常に高い。しかし、新型コロナウイルスの影響か、2020年3月ごろからレビューが止まっており、2021年9月現在はまだ休止中のよう。