イギリス その5 始まりはフィッシュ&チップス ロンドンをベタに楽しむ

「ベタ」は分かったようで分からない言葉だ。辞書で調べると、いくつかの意味がある中で、今風の使い方としては「ひねりがなく、面白味に欠けること」という意味が最も近いのかもしれない。しかし、それだけではどうしても違和感を覚えてしまう。例えば、吉本芸人が新喜劇で見せる「ベタなギャグ」は面白味に欠けるものなのだろうか。「ベタ」にはどことなく「定番」「定石」というニュアンスもあり、愛すべきものを対象に使われることも多いように思う。

さて、イギリスでレンタカーを借りて、ガイドブックにはまず載らないような旅を続けていたチームシマは、ロンドンに戻ってからはこれまでとは一転、定番スポットをめぐることになった。見どころたくさんの世界に知られた大都市を前にして、実質的に初訪問の身としては「ベタ」な行程にならざるをえなかった。こう表現すると、高飛車にすぎるだろうか。

実際にはそうではなかった。ロンドンをベタに観光せずして、いかにしてロンドンに面白味を感じられようか。短い時間で楽しむことを最優先に考えていた。こと僕に限っていうと、半月余り続いたレンタカー旅の縛りから解放されて、愛すべき旅行者の姿として、ゆっきーの毛糸屋めぐりに付き合いつつも、それ以外はベタベタにベタなロンドン観光しかしたくなかったのである。

着いたそばから定番料理

ルートン空港でレンタカーを返し、ロンドンの長距離バス乗り場、ヴィクトリア・コーチ・ステーションまで戻ってきた。レンタカー生活が板についてきていて、大荷物を携えて公共交通機関で移動するのは少しおっくうになっていた。だからといって移動しないわけにもいかず、近接するヴィクトリア駅から地下鉄で宿泊先へと向かうことに。

さすがヨーロッパの名だたる首都、人の多さが地方とは比べ物にならなかった。地下鉄で「オイスターカード」、日本の首都圏でいうならSuicaやPASMOのような存在のカードを買い、10ポンド(約1,500円)ずつチャージして出発した。

今回の宿泊先はロンドン南部のブリクストン(Brixton)のアパートの1部屋で、エアビーアンドビーで予約していた。ブリクストンは地下鉄ビクトリア線の終着駅、というと遠そうに思えるが、ヴィクトリア駅からはわずか3駅で、ロンドン中心部からのアクセスがよかった。この宿は、エアビーに登録してから最初のゲストが僕たちチームシマということで、多少の不安もあったが、一回り以上は年下であろうホストの女性が温かく迎えてくれた。

昼ご飯を逃がしておなかが減っていたこともあり、荷物を置いて早速、腹ごしらえに出かけた。目的地は宿から歩いてほんの数分のところにある「Fish Lounge」で、店名のとおりフィッシュ・アンド・チップスのお店。グーグルマップでは評価が高く、宿の女性もおすすめしていた。イギリスに来たらやはりこの定番料理は欠かせない、ということで、僕たちはランチメニューのフィッシュ・アンド・チップスを注文。時刻は16時を過ぎていたが、まだランチをやっていた。

ほどなくやってくると、皿が魚とポテトに埋め尽くされていて圧巻。食べてみると、味は悪くはなかったものの、量が多すぎて単調になり、食べきるのが辛かった。

そこからはスーパーをはしごして食材の買い出し。道を歩いていると、ポイ捨て禁止の標識が目についた。罰金は80ポンド(約12,000円)で、結構取るなあという印象。右下にある「Lambeth」はランベス区のことを指していて、32あるロンドン特別区の1つらしい。ランベス区ではポイ捨てが大きな課題になっているのだろうか。

別の場所で見かけた標識。不法投棄の罰金は400ポンド(約60,000円)ということで、さらに高額。ごみに対する住民意識が低いのだろうか。歩いているだけでは感じなかったものの、移民が多いエリアなのかもしれない、と思った。

宿に戻り、買ってきた6本入りのクラフトビールを部屋で並べてみた。銘柄がすべて違っていて、なかなかいい眺め。右端の1本が空になっているのは、帰ってきてすぐにキッチンで栓を開けていたから。

ホストはどこかに出かけているようで不在だった。

この宿のサービスとして、ガウンの提供というのがあった。シャワーを浴びて早速、使ってみたが、大きさが明らかに合っておらず、服に着られている感じ。着心地はよかったので、構わずに使い続けた。

今度は中心部を定番観光

明けて朝食。リビングの出窓がおしゃれで、花の香りもよく、ゆっきーはこの部屋をとても気に入った様子だった。この日はロンドン名物の2階建てバスに乗って市内を回った。

バスの2階の先頭に陣取って街を眺めた。この「STAY IN PEACE」はブリクストンの電車の高架橋に描かれていて、ド派手さがロンドンらしくなく、西欧でもこの目立ちようはなかなか見かけないように思った。2階建てバスに乗るのはドイツ・ベルリン以来で、中心部に近づくにつれて洗練されていく街並みを楽しんだ。

トラファルガー広場を過ぎたあたりで降りて、バッキンガム宮殿へ。衛兵交代式を見たかったが、土曜のこの日はあいにく式のない日で、翌日もハーフマラソン開催のため式は中止とか。がっかりしつつ、時計塔のビッグ・ベンがある方向へと足を進めた。

セント・ジェームズ・パークのあたりの地面に、「Jubilee Walkway」と書かれた埋め込みを見かけた。ロンドン中心部の散歩道の目印になっているらしい。

そのセント・ジェームズ・パークがこちら。都心にある公園とは思えないほど緑豊かだった。と、右下に小動物が。

なんとリスを発見!日本なら日比谷公園で見かけるようなものか。うーむ、ありえない。

2階建てバスと並ぶ交通系のロンドン名物、ロンドンタクシーの姿も。形は想像通りだったが、色は黒だけではなく多彩だった。

すっかりお上りさんになったチームシマの前に現れたのが、ウエストミンスター寺院。いわずとしれたイギリス王室ゆかりの寺院で、これは北側から見た様子。西側から見る姿が正面になるのだろうが、北側も十分に貫禄があった。

ビッグ・ベンは、チームシマが訪れる1年前の2017年8月に鐘の音が止まり、改修工事に入っていて外観がすっぽり覆われ、姿が拝めなかった。分かってはいたものの残念で、そばの上空を飛行機が通るシーンを撮影。

その近くにあったチャーチル像。ビッグ・ベンににらみを利かせるように立っていた。この2か月前にチェコの首都プラハでもチャーチル像を見かけて、あのときは「なぜここに?」と思ったものだが、こちらは本場イギリス。とはいえ、どちらかがレプリカではないかと思うほど、立ち方から杖の持ち方までまったく同じ構図だった。

ここから南に歩いてすぐのジュエル・タワーは、ストーンヘンジで購入していた「イングリッシュ・ヘリテッジ・オーバーシーズ・ビジターズ・パス」が使えるというので行ってみたが、これといった良さは見当たらず。パスを使わない場合の入場料6ポンド(約900円)はちょっと高すぎると思った。

ベタから外れて見えてきたロンドンの日常

いったん、ロンドン観光をお開きにしてトラファルガー広場に戻り、北東に10キロほど離れた毛糸屋へ向かうことに。

広場では、ネルソン記念柱が存在感を際立たせていた。19世紀初頭のトラファルガーの海戦で、ナポレオン率いるフランス軍を破ったネルソン提督を称えるものという。「トラファルガー」というスペインの地名がむやみに格好よく響いた。日本に例えて想像してみると、20世紀初頭の日露戦争での日本海海戦の勝利を記念した“日本海広場”みたいなものか。“日本海広場”なら、もうどこかの地方都市にありそうだ。

記念柱の四方を囲んでいたのは、トラではなくライオン像。広場と同様によく知られた存在らしく、観光客の格好の撮影スポットになっていた。

2階建てバスに乗り、ロンドン北東部のハックニー区というところへと向かった。

バスは何台も連なると迫力があった。バスに囲まれた救急車は圧迫感がすごそう。シックな建物群と車の群れの派手な色合いとの対比も鮮烈で、イギリスを代表するロックバンドの1つ、クイーンにまつわる映画「ボヘミアン・ラプソディ」がバスの車体広告に描かれていたのもイギリスらしかった。

ただ、のんびりと車窓からの景色を味わい続けるわけにもいかなかった。バスが途中で渋滞に巻き込まれて運行打ち切りになり、降りたバス停から乗った2台目のバスもまたもや渋滞に。このまま乗り続けていて、果たして目的地にたどりつけるのか、たどりついたとしてもいつになることやら。

疑問を感じつつも、粘り強く車窓を眺めていると見えたのが、対向車線の2階建てバス群。何台連なっているのか分からないほど続いていて、これではロンドンバスの大安売り。ちっともその価値を感じられないではないか。

動画で撮ってみたのがこちら。結局、2台目のバスも途中で運行が取りやめになった。路線バスが終点まで行かずに打ち切られるのは、日本ではバスが交通事故などのトラブルに巻き込まれない限り考えられないが、ロンドンではどうやら日常茶飯事のようだった。もっとも、このときは気づかないうちに目的地を通り過ぎたあと、強制的に下車させられたため、少し折り返すだけでよかったのは幸いだった。

2時間弱かけてようやく毛糸屋「Wild and Woolly London」に到着。シックな店構えで、早速、中に入ってみた。久々の毛糸屋とあって、ゆっきーとチームシマのメンバー、ロバ太郎が大張り切り。

さて、ロバ太郎はどこでしょう、というクイズ。正解はキツネの顔の下。ロバ太郎も売り物といわれても違和感がなさそう。

こちらは別の動物の編み物キットの完成品。今度はロバ太郎が窮屈そう。ゆっきーはキツネの顔の編み物キットに心を奪われていたが、あいにくパンダのキットしか売っていなかったために買うのは断念。これからの旅には役に立たなそうな割に、場所を取りそうだったので、僕は少しホッとした。

アイスランドで買った毛糸のブランドが1玉不足していたので購入。イギリスで買うほうがかなり高かった。

最高のフィッシュ&チップスを求めて

改めてバスに乗り、この日の夕食を取りに、グリニッジ天文台があるグリニッジ区へと向かった。写真はテムズ川にかかるタワー・ブリッジ周辺。車窓からは、世界遺産のロンドン塔が見えた。ロンドン特別区はパリ20区と違って、それを解説する日本語ガイドブックなどはなく、さらにはロンドンの心臓部のシティ・オブ・ロンドンとそれを取り囲む32の特別区で構成するグレーター・ロンドンが、中心部のインナー・ロンドンと郊外部のアウター・ロンドンに分かれていて、僕のような一介の旅行者には理解しづらかった。

そしてテムズ川。バスはここでも大渋滞で、途中で運行を打ち切ったり、行き先が急に変わってUターンしたりと翻弄された。このような運行がまかり通る理由としては、渋滞によりダイヤ確保ができなくなること、それと引き換えで過剰なまでのダイヤ本数が設定されていて他のバスに代替しやすいこと、運転手の勤務時間の都合などがあるようだ。そして、複数の民間会社が運行を担っていて、行政サイドから多くの裁量を任されていそうなことが、こうした利用者を置いてきぼりにした実態につながっている気がした。

日本なら、いくら時間が遅れたとしても、天候の理由や故障、運行中のバスの事故などがない限り、空気を運んでいるだけだったとしても、途中で運行を打ち切ることなどありえない。このあたりは日本で暮らす人たちの感覚からは大きくずれていると思った。ただ、一歩引いて利便性、コスト、システムの持続性などを考えると、実際のところは日本式がよいのかロンドン式がよいのか、一概にはいえないのかもしれない。

と、少しばかり小難しい公共交通の話になったところで、目的地の「The Golden Chippy」に到着。前日に続いてフィッシュ・アンド・チップスの店で、今回訪れた店はいくつかの日本語サイトで「ロンドンではナンバーワンのお店」という紹介があった。

チームシマの2人がそれぞれ、違う種類の魚で大きめのサイズを注文すると、やってきた魚は思い描いていたものより巨大だった。

チームシマのメンバーらで撮ってもらった。こうして見ると、前日の店と比べて魚の比率がポテトよりも高かった。

開店直後に訪れたからか、店内はまだ空いていた。ロバ太郎とビーバーのごんばはじめもくつろいだ雰囲気。

タルタルソースやケチャップなどはかけ放題で、前日にブリクストンで食べた店よりはおいしかったものの、やはり最後には単調さに飽きてしまった。店によって多少の変化はあっても根本は変わらないものなのか、「ベタな味付け」以外には施しようがないものなのか。こういった料理はほどほどのボリュームがいい、と再認識。

ただ、この店のテーブルには調味料としてタルタルソース、マヨネーズ、ケチャップ、塩のほか「non-brewed condiment」とラベルに書かれたペットボトル入りの液体2種類が置かれて、飽きがこないような工夫がみられた。最後の ペットボトルは何のことなのか分からず、手を付けなかったが、和訳すると「非発酵性調味料」、いわゆる合成酢のよう。酢より安価に作れることから、酢の代用品としてイギリスでは広く流通しているらしい。平凡社の「世界大百科事典」によると、イギリスでは合成酢に「酢」(vinegar)の言葉を使わせていないらしく、良心的だと思う。

とはいっても、この陣容では、日本のたこ焼き店のように、ソースに限らずマヨネーズ、ポン酢、七味など、いろんな味の変化、いわゆる「味変」を楽しめるようなスタイルではなく、中途半端だった。

もちろん、伝統の味を守り続ける姿勢も大事なのかもしれない。僕の故郷の明石では、玉子焼(現地の人は明石焼のことをこう呼ぶ)の店で、定番のダシ以外にソースや抹茶塩、果てはゆずコショウなど、様々な味変を提供している店がいつの間にか増えたのには、複雑な思いがする。「ベタ」というのは尊ばれることもあれば蔑まれることもある、人によって微妙なところを行き来する、繊細な存在なのだ。

食事を終えた後、またバスに乗ってグリニッジ天文台へと向かった。なにせ、グリニッジ標準時が定められている場所だし、日本標準時の子午線が通る街で幼少の一時期を過ごした身としては、ここは訪れてみたいと思っていたが、あいにくすでに閉館時間を過ぎていて、敷地内に入れなかった。そこで、訪れた足跡を写真に残し、またもやバスに乗って宿へと帰った。

早いもので、翌日はロンドン滞在の実質的な最終日。この日は丸1日ぶっ通しでロンドンを楽しんだものの、まだまだ時間が足りなかった。そして、僕が旅に出る前からやりたかったことの1つを、ここロンドンで実行するときが迫っていた。

旅の情報

今回の宿

Bright Double in Stylish apartment in Brixton
ダブル1室 3泊 16,416円 素泊まり
設備:共用バスルーム、共用キッチン Wi-Fiあり
予約方法:Airbnb
行き方:ロンドン地下鉄ヴィクトリア線またはナショナル・レールのブリクストン駅から南に歩いて15分。住宅地の中にある1軒。
その他:ゆっきーがかなり気に入っていた宿。歩道から階段を10段ほど上らないと玄関にたどりつけないのは少し不便だったが、共用キッチンとリビングルームが使いやすく、少し高い視線から歩道を見下ろせる出窓がおしゃれだった。部屋貸しのほか一棟貸しも始めたようだったが、2021年9月現在、予約の受付を休止している。

訪れた食事処

Fish Lounge
注文品:フィッシュ・アンド・チップスのランチ 2人前 14ポンド(約2,100円)
行き方:ブリクストン駅から目の前を走る国道を南に歩いて12分。国道沿いにある。
その他:魚は小ぶりで、ポテトの量の多さが目立っていた。

The Golden Chippy
注文品:フィッシュ・アンド・チップス 2人前、ビール2本 30.5ポンド(約4,600円)
行き方:ナショナルレールまたはライトレール(DLR)のグリニッジ駅から西に歩いて5分ほど。
その他:店が出してくれたタルタルソースの新しい缶をチームシマの2人でまるまる使い切る勢いだった。イギリス人に肥満が多いのも分かるような気がした。