モロッコ その2 青の町シャウエンで真っ青になりかける

モロッコの北の玄関口、タンジェから次に向かったのは、青の建物の群れが町中に広がっているというモロッコ北部の町、シャウエン。その情緒的な雰囲気から、スペインをはじめヨーロッパからの観光客も多いらしく、妻のゆっきーは想像を膨らませていたが、僕はどちらかといえば、青が目立つところを観光用に切り取っただけで、どうせ大したクオリティではないんじゃないかと訝しげなまなざしを向けていた。

2人が青ざめた白昼の出来事

シャウエンのバスターミナルは中心から離れたところにあり、タクシーに乗ってメディナ(旧市街)へ。宿の近くで下ろしてもらい、バックパックなど重い荷物を持っていくと、この日の宿「Casa Blue Star」の名の通り、ブルーの世界!この町は意外と看板に偽りなく青一色なのかも、と一気にテンションが上がった。

部屋も落ち着いた雰囲気で、気に入った。

すでに昼下がりで、お腹が減っていて、昼ご飯のために出かけた。

目指したのは、ゆっきーの調査によると、シャウエンでも名の知れているというレストラン「Bab SSour」。途中の道では土産物屋が軒を連ねていた。こういった、いかにも観光地といった風情はアラブの国ならどこにもありそうで、多少がっかりした。

さて、ゆっきーが特に楽しみにしていたBab SSourでは、タジンに卵料理、肉料理を頼んだものの、どれもパッとしなかった。卵料理は失敗した卵焼きみたいに見えたし、ミートボールは固まっていて全然ジューシーではなさそうだったし、タジンは一見して作り置きだと分かった。運ばれてきた皿を見ただけでおいしくなさそうだと思ったら、本当にそのとおりだった。

待っている時間、隣のテーブルに1人で座っていた男性が日本人ぽくみえて声をかけたら、中国系で、シャウエンには観光のため来たらしい。ここにも、ヨーロッパの観光地と同じように中国人観光客が多く押し寄せているようだった。

残念な思いをしつつ店から出ると、先ほどと違って行列になっていた。さほどおいしくなくても人気店となると、それだけで人が集まる。それとも、僕たちがたまたま、おいしくない料理や料理人に当たっただけなのだろうか。いや、そうではなかった。どこのテーブルでも似たような料理が出されていた。

青の町をゆっくりと散策しながら、宿へと戻った。

そこで一大事に気づいた。ゆっきーが持ち歩いていたかばんが、いつの間にかなくなっていた。小さなかばんだったが、ゆっきーのパスポートが入っていた。僕たち2人とも真っ青に。

「どこかで盗まれたの?」
「レストランまではあったから、そこに忘れたんだと思う」

パスポートをもし誰かに取られていたら、モロッコでの旅の行程が変わってしまうし、下手をすると日本に帰ることになるかもしれない。

「じゃあ今すぐ取りにいかなきゃ!」
「行ってきて」
「えっ!?」
「取りに行って」
「僕1人だけで?ゆっきーは行かないの?」
「今日は疲れたからもう外に出たくない」
「えっ?(こんなに大事なことなのに?)」

ゆっきーはてこでも動かない構えのようで、今度は僕1人が真っ青になった。しかたない。再び外に出て、小走りに先を急いだ。

「まだら模様の町」を散歩

ほどなくBab SSourに到着。ゆっきーのかばんは、誰かに持っていかれることなく、店の人が取ってくれていた。助かった!

安心して宿に帰ることに。大きな木が目印のメディナの広場は秋晴れだった。ただ、背後には雲も迫っていた。

このあと、シャウエン滞在中は悪天になり、僕たちを困らせるようになっていった。

それはともかく、このときはまだ天気がよかったので、メディナを散歩してみることに。

統一感まではなかったが、やはりブルーが意識されている感じ。こうまでになると、建物や壁を青く塗るようになった理由を知りたくなってきた。しかし、虫よけのため、夏の暑さを避けるため、かつてイスラム教徒が青に塗ったことから、などいろんな説があって、はっきりとはしていないらしい。モヤモヤが少し残った。

パン屋さんは、扉が青で壁面は白地に絵が描かれていた。いくらパンを焼いている人とはいっても、人物を描くのは、偶像崇拝を禁じるイスラム教として大丈夫なのだろうか。あるいは、顔がこちらを向いていないからオーケーとか。これもはっきりしなかった。

モロッコでは、男子の代表チームがこの年(2018年)のロシアワールドカップに出場したほどサッカーが盛んで、若い年代が広場で楽しんでいる姿も。こうして遠目から見たシャウエンの町は、思いのほか白が目立ち、「青の町」はどう見ても言い過ぎなように思えた。あえて言うならば、「まだら模様の町」といったところ。

宿に帰り、夜を迎えると、天井の照明が気にかかった。真鍮製のランプがモロッコらしさを感じさせた。僕たちチームシマは日本でトルコランプを作ったことはあったものの、この真鍮ランプはさすがに造形が難しそう。

それにしても、あのトルコランプをつくったのは、ちょうど結婚したころだった。それから1年半経って、仕事を辞めて夫婦で旅を続けて、アフリカ大陸のモロッコの片隅にいるとは……本当に人生は分からないものだ。

タンジェの朝、1時間の時差問題の解決から始まり、いろいろあった1日がようやく終わった。ちなみに、スマホやパソコンの時刻は修正パッチが追いつかないのか、相変わらず正規の時刻より1時間遅いままだった。

雨で寒さに震える

翌日は朝から雨が降っていて、部屋が寒かった。ゆっきーはこの寒さで体調不良に陥り、僕は1人で町を散歩しに出かけた。

前日とは違う高台に上ってみると、こちらのほうがいい眺め。ここは青空を見たかったところだが、天気ばかりは変えられない。そういうときには開き直って楽しむしかない、という旅のスタイルが、僕にはすっかりでき上がっていた。

歩いていると、確かに青の町にふさわしい通りもあった。でも、それ以上に僕の心を奪ったのは、雲の合間から見えた太陽の光が、この町並みを照らしだした光景だった。こんなごほうびのようなシーンが見られるなんて、天気が悪くてもいいことはあるもんだ。本当にありがたかった。

この日、雨はずっと降ったりやんだりで、宿に残したゆっきーの様子が気になって、戻っていった。メディナでは、車1台がかろうじて通れるかどうかという狭い街路でも軽トラがさっそうと走っていく。生活のたくましさを感じさせる瞬間だった。

「本当に寒い」

宿に帰ると、やはりゆっきーは寒そうにしていた。今回の宿は広くてワンフロア貸し切り状態なのがよかった反面、暖房がなくて、寒いときには対処の仕方がなかったのがマイナスだった。

ゆっきーは、前日に買ってきたライターでガスをつけて鍋にお湯を沸かし、少しでも部屋に暖かさと湿気をもたらそうとしていた。ゆっきーにはもはや出かける気力はなく、僕たちは室内でもダウンジャケットを着てようやく寒さをしのぎ、夜は寝袋を着て寝た。

翌朝、シャウエンの天気は持ち直していた。次の目的地は、メディナが世界遺産にもなっている古都のフェズ。2人とも訪れたかった街で、宿を出て外へと足を踏み出すと、心がもうわくわくしてきていた。

といいつつ、ゆっきーは前日、雨と寒さとで宿から一歩も外に出られなかったうっぷんを晴らすかのように、ロバ太郎とともに撮影を始めてしまった。

ほんとにもう……と僕は心の中で思いつつ、のんびりとバスターミナルに歩いて向かっていると、タクシーが捕まった。

ターミナルに着くと、バスは出発15分前。すでに多くの乗客がいた。今回、乗るのは国営のCTMではなく、民営バス。やはり車内はぼろかった。モロッコでは珍しいことに、定刻より少し早く出発した。

途中、フェズ行きは乗り換えろと言われて、バスを乗り継いでフェズに向かった。荒っぽい案内とやり口だなあ、だからモロッコでは民営バスは人気がないんだなあ……と妙に納得しながら。

旅の情報

今回の宿

Casa Blue Star
ダブルルーム 2泊(1泊+現地で延泊) 3,488円+271ディルハム(約3,200円) 素泊まり
設備:専用バスルーム Wi-Fiあり
予約方法:Booking.com(1泊目)
行き方:メディナ内のカスバ(城塞)から東に歩いて5分。
その他:予約上はダブルルームだったが、実質はワンフロア貸し切りでとても広かった。ただ、暖房はなくて冬場は寒く、防寒対策が必要。

訪れた食事処

Bab Ssour
注文品:ミートボール、鶏肉タジン、チーズオムレツ、オレンジジュース、コーヒー 計120ディルハム(約1,400円)
行き方:カスバから西に歩いて1分。2022年2月現在は、メディア内で南のほうに移転して営業しているもよう。
その他:地球の歩き方にもレストランのトップの項目に載っている有名店で、日本語を話せる店員がいる。2018年ごろはツアーで来る日本人観光客も多かったらしい。リーズナブルだが味は普通で、わざわざここを訪ねていくほどではない。