モロッコ その9 3週間のしめくくり 港町エッサウィラはラーメンと海! 

11月の初めにモロッコに入ってから、滞在はすでに3週間以上に及んでいた。この間、ゆっきーは12月には西アフリカの国・セネガルから日本へ一時帰国することを決め、シャウエンやトドラでは寒さにやられて僕たちチームシマは2人とも体調を崩し、僕はまだダメージを引きずっていた。

それでも、モロッコには魅力的な街あり、海あり、砂漠あり、渓谷ありと豊かな風土に、親切な人たちや面白い旅人たちなどにも恵まれていた。ただ、さまざまな街を訪れてはいたものの、長いこと同じ国にいると刺激が薄れてきている感もあり、僕たちはエッサウィラを最後にこの国を離れることを決めていた。

ところで、僕はモロッコに来るまでエッサウィラを知らなかった。だが、この町のメディナ(旧市街)は世界遺産にも登録されているほどの地で、日本人のバックパッカーに人気という。その魅力を実感できたらと思っていた。

トドラ渓谷で滞在した宿「アーモンド」のみちよさん一家は、もともとエッサウィラの日本人宿「かもめ号」のオーナーとして常駐していたらしい。みちよさんがトドラ渓谷に移ってからは、跡地に別の日本人一家がアフリカ初という触れ込みのラーメン店を営んでいるという話も聞いていて、訪れることを楽しみの1つにしていた。

初日からラーメンとハマムを体験

マラケシュからの長距離バスがエッサウィラに到着し、早速、予約していた宿へ。今回使ったバス会社、Supratours(スープラトゥール)のエッサウィラのバスターミナルはメディナを出てすぐのところにあり、アクセスしやすかった。

到着後は早速、ラーメン店「Ruly’s Ramen Shop」へ。営業日時が限られていて、この日(金曜)のタイミングを逃すともう訪れることができない可能性があった。

15時の閉店の1時間ほど前に、滑り込むようにして入店。入り口の看板には「The first authentic Japanese ramen in Africa 2018」とあった。和服姿の店主のくにさん、妻のえつこさんに温かく迎えられて、ゆっきーと僕はそれぞれ、みそラーメンとオリジナルのルリーズラーメン、それにアイスコーヒーを注文した。

しばらく待っていると、ラーメンが登場。煮干しから手作りしているらしく、丁寧に作りこまれた1杯ずつが滋味深くて、体にしみわたるようだった。

こちらはルリーズラーメン。

店が入る建物は海に面していて景色もよく、食事のあと、えつこさんの案内でテラスも紹介してもらった。

宿も居心地がよさそうだったので、エッサウィラには3泊することにして、ラーメン店には次の営業日(月曜)にも訪れることにした。しかも、話のついでで、この日は店じまいしたあとに、ローカルのハマムに連れていってくれることに。

ちなみに、ハマムはスチームサウナ式の公衆浴場で、トルコにあるものが有名だが、同じイスラム圏のここモロッコにも存在している。銭湯のような庶民的なものからラグジュアリーなエステも兼ねた観光客用のスパもあり、サービスも違えば料金も雲泥の差で、観光客用はローカルなものより10~20倍くらいの料金はかかるようだ。

ガイドブックによると、イスラム圏では女性はあまり外に出ない国も多く、ちょっとした息抜き時間として、ハマムが蒸されたり垢すりをしてもらったり、おしゃべりをする時間として使われているという。まあ、モロッコでは女性も普通に外出しているが。

いったん宿に戻り、準備をしてハマムへ。僕はくにさんに案内されるがままに男子風呂、ゆっきーはえつこさんとともに女子風呂に向かっていった。出入口は大きくなくて、注意深く見ていないと見過ごしてしまいそうな雰囲気。

ハマムは当然のごとく写真NGで、バケツにお湯をためて、小さな桶でお湯をすくって体にかけた。モロッコ人は、サボンノワールと呼ばれる石けんを体に塗ってごしごしとしていたが、僕は石けんを持ってきておらず、お湯をかけて洗うだけにした。

一方のゆっきーは、パンツいっちょで中に入ると、同じくパンツいっちょの地元の女性たちが湯気の向こうにわらわらといるなか、垢すりをお願いしたらしい。垢すりをするおばさまのなすがままに蒸され、石けんを塗りたくられてこすられ、お湯で流されたそうだ。

すると、垢が出ること出ること……垢すりおばさまが嬉しそうに垢をつまんで「スパゲッティ!スパゲッティ!」と言ってきて、えつこさんにも「ほら!」と見せびらかしたとか。僕たちは半年間、ほぼお風呂に浸かっていなかったこともあり、ゆっきーにしたら、その分の垢を落としたような気がしたそうだった。

僕はハマムに行ったあと、快方に向かいつつあった体調がまた悪化して、元気のないまま過ごした。

日本をほうふつさせる港町

翌日、僕は風邪で頭が重く、ゆっくりとした朝に。ゆっきーとともに昼ご飯を食べに外へと出かけた。

すると、街角で多くの絵画を取り扱っている画廊のような店を見つけた。ここエッサウィラは18世紀半ばから芸術家たちが集まって絵画や音楽が盛んになった歴史があり、いまもその空気が引き継がれているという。

昼ご飯はモロッコ料理の「Chez Youssef」へ。グーグルマップでの評価がほぼ満点に近く、期待値が高かった。

そうはいっても、風邪がぶり返して魚のタジンやケフタ(ミートボール)タジンを前に鼻をかむ僕。一方でチームシマのチームメイト、ロバ太郎は熱々の湯気に囲まれて、朗らかな笑顔。

そして、ここは期待どおりにおいしかった。

店を出て、メディナを散歩してから海沿いへ。

漁港は日本にもありそうな雰囲気。かつて僕が暮らした街から近かった広島県・鞆の浦ののんびりした風情を思い出して、エッサウィラが日本人バックパッカーの好みだというのもよく理解できた。小ぢんまりしていて、日本にもどこかしら共通点を見いだせて、旅人が羽を休めてホッとできる要素が揃っているような気がした。

しかし、飛んでいるカモメの数が半端ではなかった。みちよさんがこの地での宿の屋号を「かもめ号」としたくらいだから、この町の名物なんだろう。間近で見ることもできたのも、特別感があった。

魚を売っている屋台もちらほら。

動画ではこんな雰囲気だった。

海沿いにはビーチもあった。海岸線の光景は日本でも見かけそうな、あるいはスペインのサン・セバスチャンで立ち寄ったラ・コンチャ海岸にも似ているような。そしてなぜか、ブランコもあった。

この砂浜で、ゆっきーに「ポーズを取って!」と言われて。

桂文枝の「いらっしゃーい!」を思わずやってしまった。風邪で元気がなかったからだろうか。思うにアフリカでは初の砂浜だったが、この服装からも分かるように、11月のこの地は泳げるような陽気ではなく、ただアフリカのビーチというのが物珍しかった。

そして、夏には海水浴を楽しむ現地の人もいるだろう、と思えるくらいの裕福な雰囲気はあった。

この町にもあったスーパーのカルフールで買い物をして、いったん宿に落ち着くことに。

この宿のよかったところは、とても親切だったオーナーをはじめいろいろあったが、その中でも特筆すべきポイントは、写真の右手のようなオイルヒーターが置いてあったこと。外は風もあって肌寒かったが、宿に戻るとポカポカしていてとても過ごしやすかった。そして、僕たちチームシマは、温風が出てくるエアコンよりもオイルヒーターのほうが好みだった。

トドラ渓谷で魅力にはまって以来、僕たちチームシマはヨーグルトの食べ比べを続けていて、カルフールでお気に入りがあったので大量買いしていた。そのヨーグルトのてっぺんでマウントを取るロバ太郎。

この日は夜も外食に出かけた。向かったのは、町のメインの通りにある「Chez Miloud」で、日本でいうならみそ汁のような存在のハリラスープと、パンケーキと呼ぶには生地が薄すぎるクレープを注文。

ここも当たりで、連日通うことに。少し町を歩いてから宿に戻った。

宿で思い思いの過ごし方をしていて、ゆっきーは編みかけだったセーターが完成!僕にはとてもマネできないような模様も入っていて、素晴らしい出来栄えだった。

西サハラを前に英気を養う

明けてエッサウィラも3日目。この日は次の西サハラに向けて英気を養おうと、朝からのんびりしていたが、昼ご飯を食べにお出かけ。

ここはこれまでにも何度か見た、じゅうたんなどが売られていた一角。

前の日とは違うお店を訪れてタジンを注文。見た目はおいしそうだったものの、食べてみると薄味でおいしくなく、あまり冒険しない方がよかったと少し後悔。

食事後、袋詰めされて売られているモロッコの石けん、サボンノワールを2袋買った。フランス・パリで買ったマルセイユ石鹼がまだ大量に残っていたので、僕は買う必要性を感じなかったが、ゆっきーは前から気になっていて試してみたかったらしい。

その後、ゆっきーは宿でのんびりして、僕は新市街まで少し散歩した。

新市街の道路はかなり広くて、観光用の馬車の姿も。

メディナに戻ってくると、スイッチやホースなどを売っている店がふと目に付いた。関心が向いたのは「OSAKA」と書かれた段ボール。モロッコでは「OSAKA」と背中に書かれたパーカーを着ている人を見たことはあったものの、ここは衣料品店ではない。結局、何の段ボールなのか不明のままだった。

一方のゆっきーは、かばんの底で潰れていた毛糸を発見。アイスランドで買っていたものらしい。

次の2人での外出は晩ご飯。前の日と同じく「Chez Miloud」で、これも前日と同じハリラスープとクレープを食べた。この日もおいしく、店は地元の人たち、特におじさんたちでにぎわっていた。

帰り道では、たこ焼き屋らしき店が目に飛び込んできた。あとで調べたら、2012年に日本人が現地のモロッコ人に焼き方を教えて始まった店らしい。多少、気にはなったものの、あえてモロッコでたこ焼きが食べたいような気分にもならなかった。

夜中、ゆっきーが僕の寝顔を撮っていた。

一緒に寝ていたロバ太郎やビーバーのごんばはじめを退場させて、さらに撮り進めていた。

すると。

なんと僕の目が見開いた!

ゆっきーはすごくびっくりしたそうだけれど、このあと僕はまたすぐに眠ってしまったらしい。

モロッコ最終日はメディナ散策

翌日は、いよいよ西サハラに向けて出発する日。バスの時刻は夕暮れ時だったため、宿をチェックアウトして大きな荷物を置かせてもらい、ランチへ。向かった先はもちろん、おとといにも行った「Chez Youssef」。

僕もこのころにはだいぶ元気を取り戻していた。

食事の後は、海に面した城塞へ。

18世紀にアラウィー朝が建造したものらしい。メディナの雰囲気とはまた違って再整備された空間のようで、何かと絵になった。

大砲を操ろうとするロバ太郎も絵になった……気がしない。

エッサウィラの出発を前に、初日に続いてもう一度「Ruly’s Ramen Shop」に立ち寄った。この日は昼ご飯を済ませたあとだったため、コーヒーをいただくことに。

茶菓子もついてきて、開放的な窓のある部屋でくつろいでいると。

店名の由来にもなっているオーナー夫婦の娘、瑠璃ちゃんが登場!

ロバ太郎とはじめが相手をすると大喜び。

どうやら、はじめが気に入った様子⁉

と思いきや、はじめを倒して決めポーズ!とても楽しい時間だった。夫婦にこれから西アフリカを旅してくることを改めて伝えて、店を後にした。

今後に備えてパスポートのコピーを取ったりしてもまだ時間があったので、老舗のカフェ「Patisserie Driss」を訪れ、オレンジジュースで一息。おしゃれな空間だった。

さらに、バスターミナルに向かう前にみたび「Chez Miloud」に寄って腹ごしらえした。

というのも、次に向かう西サハラの街ダフラまでは24時間かかるらしく、僕たちはだいぶ身構えていた。

夕方がやってきて、すべての荷物を持ってタクシーでCTMのバスターミナルへ。

時間に余裕を持ってバスに乗り込み、出発を待った。車内は空いていて、1人で2座席を確保できた。このままだと夜中も落ち着いて過ごせそう。幸先がよかった。

窓の外に目を移すと、夕暮れが見えた。

そして、空を焦がすかのような夕焼けへと変わっていった。

バスが出発。3週間あまりを過ごしたモロッコでの日々を忘れるなと言わんばかりの、赤いオーロラのような、赤黒く空が染まっていった。その姿を写真に収めつつ、ずっと眺めていた。

旅の間、一国で過ごした時間はモロッコがこれまでで最も長かったのに、この国に対する感傷はなかなか湧いてこなかった。次に訪れる西サハラ、セネガル、そして西アフリカの国々に対するこれからのほうに思いを馳せていたからに違いない。

しかし、夕焼けを見ているうちに、モロッコを去ることが急に現実味を帯びてきた。そして、天からも門出を祝ってもらっているような思いになっていた。

旅の情報

今回の宿

ダール ラティゲオ(Dar Latigeo)
ダブルルーム 3泊(2+1泊) 701ディルハム(約8,300円) 素泊まり
設備:共用バスルーム Wi-Fiあり
予約方法:Booking.com(2泊分、最後の1泊はオーナーと直接交渉して延泊)
行き方:Supratoursのバスターミナルから北に歩いて10分。
その他:本文中にも書いたが、オイルヒーターを置いていたのがポイントが高かった。タイルと大理石のフロアでバルコニーとパティオが備わっており、清潔で過ごしやすかった。

訪れた食事処

Ruly’s Ramen Shop
注文品:(初回)オリジナル、みそラーメン、アイスコーヒー 200ディルハム(約2,400円)
行き方:Supratoursのバスターミナルから北に歩いて15分ほど。
その他:このエッサウィラの地で、ラーメン店だけではやっていけそうにないように感じていて、下世話な話だが、店主の一家が一体どのように生計を立てているのだろうか、気になった。なお、2021年に元の店主一家はジョージアに移り、2022年4月現在は2代目の日本人一家が店を営んでいる。

Chez Youssef
注文品:(初回)魚タジン、ケフタタジン、コーヒー2杯 100ディルハム(約1,200円)
行き方:繁華なムーレイ・エル・ハッサン広場から北東にムハンマド・ベン・アブダラー通りを歩いて5分。
その他:安くておいしくて落ち着けて、店員さんの人もいいモロッコ料理店。すべてを兼ね備えた店だった。

Chez Miloud
注文品:(初回)ハリラスープ2つ、クレープ2枚 16ディルハム(190円)
行き方:ムーレイ・エル・ハッサン広場からメディナのメイン通り、イスティックラル通りを北東に歩いて5分。
その他:滞在初日を以外の3日間訪れて、毎回、地元の人たちでにぎわっていた店。庶民的な価格設定とおいしさに、そのにぎわいの秘訣があったように思う。