ロシア その5 首都モスクワは広くきれいで、熱狂の渦に巻き込まれていた

世界で一番面積の広い国、ロシアは首都・モスクワも巨大さを感じさせる都市で、ロシア鉄道のターミナル駅ひとつを取ってみても、方面別に9駅もある。街の区画や建物の大きさもかなりのもので、モスクワの街並みはロシアの国土の規模をそのまま凝縮させたかのようだ。

しかも、その街並みがきれいなことに驚かされた。ごみ1つ落ちていないといってもいいほど。この先、訪ねていくヨーロッパの国々と違って、街中の建造物や鉄道車両など公共物への落書きもほとんど見かけなかった。街灯は明るく、夜、歩いていて不安を感じることもなかった。

エンターテインメントも充実していて、特に芸術に関しては選択肢が非常に多く、安いチケットも入手できるうえに内容のレベルも非常に高い。飲食費、宿泊費はロシアにしては高価だと感じたものの、総じて満足感の高い滞在だった。

ロシア鉄道でモスクワまで移動してきたチームシマは、7月1日の早朝、カザフスタンやアゼルバイジャンへの列車も発着しているパヴェレツキー駅に降り立ち、予約していた宿まで地下鉄で向かった。

地下鉄駅の改札に行くと、まず自動券売機の数の多さに圧倒された。

3日間使い放題の券を購入。改札からエスカレーターでホームに向かうと、近未来的で天井が低くて到着先がよく見えず、一直線にどこまでも奥深く地中に潜っていくような感覚。東京メトロで最もエスカレーターが長い新御茶ノ水駅でもここまでは味わえない。

別の日に他の駅で見たエスカレーターの様子。モスクワの地下鉄では、旧ソ連時代の社会主義リアリズムを体現した豪華な装飾が今でも楽しめることを知っていたが、エスカレーターにも風格を感じた。

こんなデザインのホームや、

こんなしゃれた空間も。

宿の最寄りはロシア鉄道の駅もあるベラルースカヤ駅で、その名の通りこの駅からはベラルーシ行きの列車が出ている。駅から宿まで歩いていくと、幹線道路の規模感がまた尋常ではなかった。

両方合わせて10車線以上に中央分離帯。

この道を横断するために設けられた地下の歩道も100メートル走ができそうなほど、先が遠い。

宿に着いてアーリーチェックインをして、しばらく休憩してから外出。まずはクレムリンなどがある都心部に向かった。

街区の区画や建物の大きさもかなりのもの。

これは赤の広場の付近。近くにある観光名所で、ソ連時代は国営だった「グム百貨店」の中で食事して、イルクーツクにいるときにネット予約していたボリショイサーカスを見にいった。この先、ヨーロッパではネット予約していなければ、当日その場所に出向いても入れないという観光名所が増えていく。ネット時代の功罪を感じる。

会場には早めに着き、しばらく待って期待感を高めたあとでいよいよ開演。ロシアW杯にかこつけて「世界」がテーマのようだ。

世界の「本田圭佑」が、試合会場のみならずこんなところにも登場。

 

 

最もすごいと思ったのはこの出し物。

 

 

動物とともに綱渡り。曲芸にはことごとく圧倒された。

W杯に参加している国をモチーフにした音楽や踊りもあり、その中に日本も含まれていた。

色調は日本の国旗に描かれている赤と白だが、表現自体はどちらかというと中国の伝統芸能に近かった。ロシアから見た日本のイメージは、一般的にはこんな感じなのだろうか。上の方にある「愛」が何を意味するのかよく分からなかったのもご愛嬌、といったところ。

観客参加型のアトラクションもあり、全く飽きさせない。1人600ルーブル(約1100円)の安い席だったものの、会場をよく見通せて、見ごたえもコストパフォーマンスも十分だった。

終演後もモスクワをうろうろしているうちに、ロシア人たちの熱狂的な側面を目の当たりにすることになった。

この日、決勝トーナメントのロシア対スペインの試合があり、PK戦の末、ロシアがスペインを下してベスト8に駒を進めた。スペインは2010年南アフリカ大会を制した強豪で、波瀾といっても過言ではなかった。宿に帰るバスの車内ではみんな歌って飛び跳ねて大盛り上がり。

車窓の外では、クラクションを鳴らしながら窓から旗を振ったり、箱乗りして気勢を上げたりする車が大通りをひっきりなしに行き交っていた。単に愛国心が強いだけなのか、日ごろたまった鬱憤を晴らしてもいるのか。早朝の市街の静けさが嘘のようだった。

翌日も快晴のモスクワ市内を散策。

ボリショイ劇場で何か見たいと思い立ち、向かったものの、チケットを買うには現地の販売窓口は敷居が高すぎて、インターネットの方が取りやすかった。結局、モスクワ滞在の実質最終日となる翌日のオペラのチケットをネットで予約した。

ロシア一有名と思われるスタローバヤ、グム百貨店内にある「スタローバヤ57」で昼ごはん。前日は行列が長すぎて諦めていた。さほど安くない割には食べ物の種類も味もイマイチ。この後、都心で食べた「バーガーヒーローズ」のほうが雰囲気がよく、おいしかった。

昼下がりには1人で散策。最大の目的は「スターリン建築」といわれる荘厳な摩天楼の建物を見て回ること。モスクワ市内にある代表的な7つの建築は「セブンシスターズ」といわれている。

そのうちの1つ「ホテル・ウクライナ」。現在は5つ星ホテル「ラディソン・ロイヤル・ホテル・モスクワ」となっているが、近くのバス停は「ホテル・ウクライナ」の名のまま残っていた。他にも外務省の建物にも足を運んだ。やたら大きくてなかなか写真に納まらず、2棟見ただけで食傷気味になり、「モスクワの原宿」という触れ込みのアルバート通りに向かった。

爆発頭の絵描きに人だかり。だだっ広いがゆえに、人が集まっていても通りのにぎわいを感じづらかったモスクワで、この通りは何となく東京の雑踏にも通じるものがあった。

バイク愛好家が集う店もあった。

夜はチームシマの2人で、日本対ベルギー戦の試合のパブリックビューイングかテレビ中継を放送している店を求めて、都心のクレムリンの辺りまで出かけた。

華やかなライトアップはムーディだが、肝心の店はなかなか見当たらず、たまにあっても超満席。

ちなみに、この通りの昼間はこんな感じ。

試合はもうとっくに始まってしまっていて、どこか別のエリアに移ろうと地下鉄に乗り込んだところで発見!

なんと、車両のモニターが試合を映し出していた。店を探すのをやめて、車両に乗り続けることに。時々、中継以外の映像が入って途切れるものの、まあまあ良く見られる。……電車は終点で折り返しつつ、乗り続けているうちに0対0から2対0になり、追いつかれて2対2に。試合時間はあとわずか。延長か?と思っていると、中継映像が途切れてしまった。昔、まだ地上波でプロ野球中継が盛んだったころ、最終盤のいいところで時間が来たため放送が終わってしまった、あの何ともいえないもどかしい感覚を久しぶりに思い出した。ただで見させてもらっているわけだし、贅沢を言うつもりはないが、何とかならんものか。

周りに乗客のいなくなっていた車両で、数分後に中継画像が戻ってきた。試合終了直後で、日本は最後のワンプレー「ロストフの14秒」で逆転の決勝弾を浴び、2対3で負けてしまっていた。このワンプレーは、後にNHKスペシャルで何十分もかけて取り上げられることになる。

日本代表のロシアW杯が終わったこの夜、チームシマの世界旅行も第1ラウンドが幕を閉じたような思いがした。