アイルランド その2 西に北に縦横無尽! 崖っぷちの自然探訪シリーズ

今回、アイルランド南部までわざわざやってきた目的は、ゆっきーが行きたがっていた毛糸屋を訪れることにあった。そんな理由だけで、ダブリンからはるばる300キロ弱の道をドライブしてきていた。そのついでというにはおこがましいが、そこからアイルランド西部の景勝地、モハーの断崖を訪れ、その後、島の北部にあるイギリス領の北アイルランドにも向かう予定にしていた。

北アイルランドといえば、むかし読んだ浦沢直樹の漫画「MASTERキートン」を思いだす。主人公の平賀=キートン・太一はイギリス国籍という設定のため、ヨーロッパを舞台にしたシナリオも多かった。連載当時は続いていた北アイルランド紛争も何度か取り上げられていて、関係する組織による報復合戦が泥沼化している、という分析があった。

今回は、南部の町、ホワイトゲートからモハーの断崖、そして北アイルランドの世界遺産、ジャイアンツ・コーズウェイまでの道中を紹介。ちなみに、ジャイアンツ・コーズウェイは、正式な日本語では「コーズウェー」と最後を伸ばすようだが、現地でもらった日本語のパンフレットには「ジャイアンツ・コーズウェイ」と書いてあったので、そちらを使うことにした。

そういうことで、アイルランド2日目は、ゆっきーのたっての願いで毛糸屋の「Hedgehog Fibres」へ。宿から約25キロの道のりが、すごく近く感じてしまった。

ゆっきーがいろいろと見るつもりだったのが、僕もじっくりと見てしまっていた。

この毛糸屋からはアイルランド第2の都市、コークも近かったものの、そこには立ち寄らず、約180キロ離れたモハーの断崖に向かった。この日の宿泊地、エニスの街を通り過ぎて、アイルランド中部の西海岸まで3時間余りで到着し、駐車場に車を止めて崖の方へ。

この日は天気が悪く、着いた当初は霧が出ていたが、次第に晴れてきた。チームシマのメンバー、ロバ太郎が断崖を見渡しているので規模感が分かりにくいが、このあたりの塔があるところが最も高くて海面から214メートル。ウィキペディアによると、約8キロ南の岬のあたりでは120メートルと半分ほどになるが、それでもかなり高さがある。

チームシマの2人でも撮影。

しばらく歩いて断崖を行き来しつつ、反対側も撮影。僕の頭の上に映っているのは海食柱。

足を踏み外したら落っこちて死にそうなところも安全柵を設けたり、立ち入り禁止にしたりせず自然のまま残しているのが、日本ではありえない状況だった。このような場所に立ち入るといつも思うことだが、ありのままを公開する判断は、個人的には素晴らしいと思う。

モハーの断崖とはこれでお別れ。車で10分ほどのところに「DONKEY FARM」という手書きの案内看板があったので、向かってみたら。

「MANY NICE DONKEYS」はどこにも見当たらず。素敵な仲間たちと出合えると思っていたロバ太郎は、上を向いてご立腹の様子。

何だかんだとしているうちに時刻は16時を回っていて、気を取り直してエニスに向かった。写真は、断崖から約15キロ離れたエニスタイモンという町のメイン通り。パステルカラーの家が立ち並び、悪天とはいえ、なかなかいい雰囲気だった。

ほどなくエニスの宿に到着、チェックイン。この日も前日に続き、エアビーアンドビーで予約した宿だった。

外はまだ明るく、再び出かけてスーパーで買い物をしてきて、パスタとソーセージで軽く調理して夕食。

この家はリビングがガラス張りで、明るくとてもいい雰囲気だった。ホストのさばけた感じの女性は割と話し好きで、家電などの使い方を教えてもらいつつ、どこから来たのかとか、どこを旅する予定かとか、とりとめのない話をした。

庭を別角度から。

窓とは反対側を向いたら、バーカウンター。おしゃれ。

一晩明けて、翌日はまたもや長距離ドライブに。北アイルランドの世界遺産、ジャイアンツ・コーズウェイに向けて約400キロの道のりを出発した。イギリスやアイルランドの分厚い雲に覆われた天気のイメージそのまま、この日も悪天だった。

休憩をはさみつつ6時間かけて到着。途中、北アイルランド第2の都市・ロンドンデリーの近郊でイギリス領に入ったものの、国境がどこなのか気づかないまま、いつの間にか通り過ぎていた。

ジャイアンツ・コーズウェイに着いたときには、雨がとめどなく降っていて肌寒かった。僕には世界的な奇観を見たいという思いがあったものの、ゆっきーは全く関心がなさそうで、早く去りがっていた。

チームシマの、この表情の温度差。僕が首から下げているのはオーディオガイドで、日本語も選択できるようになっていた。

ここジャイアンツ・コーズウェイは4万本以上の玄武岩の石柱群で構成され、巨人伝説が残っている。実際には柱状節理、言い換えれば溶岩やマグマが冷えて固まった際のひび割れが、この奇観を生み出している。

この規模感を歩いて回れるのは、すごいとしか言いようがなかった。しかし、天気は一向に回復の兆しがなく、とにかく肌寒かった。文句を垂れるゆっきーに引っ張られるように退散。この日の宿泊先に向かった。

この日の宿泊先は、北アイルランドまで2キロ余りという国境近く、アイルランド側のキャリガンズという集落にある宿で、またもやエアビーで予約。天気はいつの間にか回復してきていた。

宿の近くの国境で車を止めて、違いを観察。すると、最高速度の標識に違いが見て取れた。こちらはアイルランド側。最上部にアイルランド語が書かれ、スピードはキロ表示になっていた。

次に、北アイルランド側。スピードはマイル表示になっていた。60マイルは約96.56キロで、もしアイルランド側の最高速度が100キロだったとしたら、約3.5キロの差が生まれることになる。

写真には撮れなかったが、この地域の標識は「Londonderry」の「London」や、「Northern Ireland」の「Northern」がスプレーで塗りつぶされていたりしていて、アイルランドの中にはイギリスに対する反感が根強く残っているのだろうか、と思わされた。

ちなみに、両国の通貨はアイルランドがユーロなのに対して、北アイルランドはポンドで異なっている。イギリスが2021年の元日、EUを離脱してからも、国境の様子は以前と変わらず、税関もないようだが、物流をめぐる関税などの通商分野では、2021年現在も問題を抱えているようだ。北アイルランドでは、多数派のプロテスタント系住民と少数派のカトリック系住民の宗教対立がかつての紛争を生み出してきた歴史があり、カトリック系が多数派を占めるアイルランドも、そうではないイギリスも、触らぬ神に祟りなしとばかりに、国境管理の扱いには神経をとがらせている。

と、硬い話が続いたところで、アイルランド側に戻ってスーパーで買い出し。アイルランド名産のグラスフェッドバター、ケリーゴールド社製のバターがたっぷりあった。グラスフェッドバターは、牧草を食べて育った牛から作ったバターのことで、穀物を食べて育った牛よりも良質なバターができるそう。チームシマはこのころ、バターコーヒーにはまっていた。

中段の真ん中の454グラム入りでも1個500円もしなかったが、日本で手に入れようとすると、この半分の量で2000円弱+送料はかかるようだ。日本は安全安心な食に恵まれておらず、いいものを手に入れようとすると自分できちんと調べなければならないし、高くつくところがつくづく残念だと思う。

この日の宿は「Dunmore House & Gardens」という名の、古城と庭園がある敷地内にあった。着いたときには暗くなっていたので雰囲気しか分からなかったが、食事は古城のダイニングルームを使っていいとのことで、やたらと豪華な雰囲気の食事風景に。

部屋に薪ストーブもあった。じっと見つめるロバ太郎とビーバーのごんばはじめ。

暖を取るロバ太郎とはじめ。

薪をくべる作業を見守る2人、ならぬ2体。

翌朝、泊まった離れのログハウスを撮影。まだ新しくて、ヒーターも効いていて滞在しやすかった。アイルランドに来てからというもの、曇り、雨、霧、曇り、雨と悪天続きだったが、前日の夕暮れどきに初めて晴れ間が見えて、この日の朝は快晴になった。この地の新鮮な空気もあって、晴れやかな気分に。

古城はこんな雰囲気。

朝ごはんに、ここで採れたブラックベリーやオレンジなどで作ったらしいジャムをいただいた。

庭園。絵になった。こんなところに住めたらいいのに、と思った。至福の朝だった。

いよいよアイルランドも大詰め、次は首都・ダブリンの方向へ。そこには、チームシマの旅を彩るスーパーホスト(夜の街とか新宿・歌舞伎町とかのほうではなくて、宿のホスト)が待ち構えていた。