イギリス その3 ストーンヘンジでいざなわれ、古城めぐり開始

イギリスのストーンヘンジは、牧草地にこつ然と姿を現すサークル状の巨石群が特徴的な、世界でも最も有名な部類の遺跡だろう。通説では、先史時代の4500年前ほどから500年間に巨石群が立てられたとされ、それを囲む土塁や堀などはもっと古いという。何のための施設だったのかは謎とされており、エジプトのピラミッドなどと並びスピリチュアルな場所、あるいはパワースポットとして取り上げられることも多い。

スピリチュアルの切り込み隊長、ゆっきーに率いられ、チームシマもストーンヘンジを目指すことにしていた。

ちなみに、僕自身、ストーンヘンジは高校時代までに学んで知っていたものの、興味を持ったのは、大学生になって光栄(現・コーエーテクモゲームス)のシミュレーションゲーム「大航海時代III Costa del Sol」をプレーしてからだった。このゲームは、15世紀終盤から16世紀にかけての全世界を舞台に、遺跡(歴史)や地理、宝物などを発見していくことが目的で、イベリア半島からゲームが始まり、ストーンヘンジは早めの段階で発見できた。ピサの斜塔や喜望峰、果てはジパングなど、印象深い発見物がたくさんあるなか、なぜかストーンヘンジの記憶も強く残っている。

大航海時代IIIは自由度の高いゲームで、僕は結構やりこんで、世界地理や歴史の知識を得てきた。こんなことを書くとまたプレーしたくなってきたが、現行のWindowsやスマートフォンの環境で簡単に動くバージョンはないみたい。残念。

今回は、ストーンヘンジを経てイングランドとウェールズの境のワイ渓谷まで行き、一転、北上してイギリス有数の都市、バーミンガムに近いアール・シルトンにたどり着くまでの道のりを紹介。

ストーンヘンジに降り立つ

病院臭が漂っていたソルトディーンの宿を出て、まず最初に向かったのは南部のリゾート地、ブライトン。街中にある毛糸屋に行って、ゆっきーがほしがっているニットの本を手に入れるのが目的だった。30分ほどで着いたものの、辺りは庭付きの一軒家が立ち並ぶまさに住宅街といった風情で、毛糸屋どころか個人商店が入りこむ余地さえどこにもなさそう。

これがその毛糸屋。今までの店では見たことがないほど普通の住宅だった。恐る恐るチャイムを押してみると、確かに目的の毛糸屋だった。オーナーの女性は留守にしていて、敷地内には入れなかったものの、留守を預かっているという外国出身の白人男性が対応してくれた。ニットの本は在庫があるらしく、売ってくれた。僕たちが世界一周をしているところだというと、面白がってくれて、こちらまでうれしい思いに。

今度こそ、ストーンヘンジに向かった。ブライトンから2時間あまり、日露戦争の講和条約の名で登場するポーツマスや、日本人選手が在籍するサッカーのクラブチームの名前としてよく聞くサウサンプトンの近郊などを経て、目的地までやってきた。

車を止めて、チケットカウンターへ。このとき、期せずして2つの選択肢が現れた。

1つは、普通に当日券を買い求めることで、1人21.5ポンド(約3,200円)。もう1つは、「イングリッシュ・ヘリテッジ・オーバーシーズ・ビジターズ・パス」という外国人旅行者向けのパスを購入する方法で、こちらは大人2人で9日間有効のパスが57ポンド(約8,500円)。イギリス政府が組織したイングリッシュ・ヘリテッジが管理する100以上の歴史的建造物に入場でき、ストーンヘンジの他に2つほど施設を回ると元が取れるというあんばい。

チームシマは、ストーンヘンジ以外、取りたてて見たい遺跡はなかったものの、せっかく車で国内を回るならと後者のパスを選択。これが、イギリスでのレンタカー旅の行方を決定づけることになった。

さっそく、出入り口から中へと入った。シャトルバスもあるが、すでに遠目に巨石群が見えていて、僕たちは歩いて向かった。

サークル状の巨石群が写るところで、僕たちチームシマで撮影。見たかったストーンヘンジがすぐそこにあるというのに、僕はちょっと疲れ気味。ゆっきーは元気そう。

チームシマのメンバー、ロバ太郎と撮ると、この世のものとは思えない、完璧なできばえの合成写真のような、フォトジェニックな雰囲気に。これもストーンヘンジの力がなせるワザか。

一方で、ビーバーのごんばはじめもまた合成写真っぽい雰囲気に。

石の向きは夏至の日の出や冬至の日の入りの方向と密接な関係があり、いまだ解き明かされていない謎も多い。そこがスピリチュアルなスポットとして人を惹きつける大きな要因となっている。ストーンヘンジは立ち入り禁止区域が設けられていて、特別なツアーに参加しない限り、石のすぐそばまでは行けないのが残念だった。ただ、間近に近づけば近づくほど全体の雰囲気を味わえなくなるのもまた事実で、遺跡保護の観点からも、立ち入り制限はこれでいいように思えた。

有名な遺跡ということもあって、世界中から観光客が集まってにぎわっていたが、立ち入り禁止区域のすぐそばの地面に居座って、瞑想のようなポーズを取り続けている東洋系の若い女性がいた。同じ東洋系として、おそらく日本人だろうな、と感じた。こういう直感はたいてい当たる。その人のストイックさは分かるものの、ただの自己満足に浸っているだけであろうということまで、こちらにひしひしと伝わってきて、同じ日本人として恥ずかしい気持ちにもなった。

スピリチュアルな力を感じ取る能力がある人は、衆人環視の中でこれ見よがしにアピールするのではなく、本当にそういう力が出ている場所にひそかにアクセスして、自分の中に力を取り込んでいるものだと思う。このストーンヘンジの場合、あまりにも観光客が多すぎて、古代の儀式などに相通じるような、もっと落ち着いた環境が必要な気がした。

さて、一通り見終わった後でビジターセンターに戻り、土産物店に立ち寄ると、一気に俗世間に戻った気分。ストーン型のクッションなのか、ネックピローなのか、中途半端なグッズにはまったゆっきー。

僕も同じものを取ってポーズをしてみた。髪がヤバいことになっていた。結局、グッズは買わず。

ここからはこの日の宿泊先に向けて移動。イングランド南西部の最大都市、ブリストル近郊を通ってイングランドを抜け、ほんの少しだけウエールズに入り、ワイ川に沿ったワイ渓谷にあるユースホステルを目指した。宿に近づき、細い田舎道になったところで日が暮れて暗くなった。

それでも宿に無事到着し、一息つきつつ自炊して晩ご飯。なじみのない外国での車の長時間運転も、アイスランド初日からこの日で14日間連続となり、さすがに疲れが隠せなかった。

朝から古城めぐり

翌朝、明るくなってから外を望むと、実に田舎らしい、いい雰囲気。ユースホステルということもあり、敷地内にテントを立てて宿泊費を安く浮かせている人もいた。

泊まっていたのは2段ベッド。館内はいかにもユースホステルといった設備だった。

食堂に面した中庭は味があった。チェックアウトして、古城めぐりに出発。南や西を目指していた前日までとは一転、この日からは東海岸を目指した。

と、車を動かし始めたところで早速、フォトジェニックな道に出くわし、ロバ太郎と撮影。

景色だけだとこんな感じ。♪この木、なんの木、気になる木~と、「日立の樹」を思わず思い浮かべた。歴代CMのゆかりの木に、ヨーロッパのものは入っていないけれども。

さて、ここからしばらくは古城探訪シリーズ。最初に立ち寄った古城はグッドリッチ城で、実は前日泊まったワイ渓谷から、車で10分も行かないところにあった。それがこの景色。「まさにGood立地!」と日本語を理解する人にしか分からないオヤジギャクをつい言ってしまいたくなる、遠くまで見通せる立地だった。

グッドリッチ城は11世紀から築造が始まり、17世紀には打ち捨てられたという。廃墟に近かったが、快晴の中、それがまたいい味を出していた。

こんな古城でロバ太郎と戯れてみた。

少しばかり、他の観光客の姿も見えたが、前日のストーンヘンジと比べると実にのんびりしていて、居心地がよかった。

建物の中はこんな様子。いつのものか、ステンドグラスが窓枠にはまっていた。ここは建物の内外とも優れた雰囲気で、来てよかったと思った。

土産物店で兜をかぶるはじめ。とてもよく似合っていた。この旅のこれまでのベストショットといってもいいくらい。

グッドリッチ城にお別れする前、ロバ太郎が赤く染まった落ち葉とともに。10月上旬とはいえ、イギリスの日中の気温は10度余りのときもあり、秋の深まりを感じさせた。

続いて向かったのは、北東に約130キロ離れたケニルワース城。大都市のバーミンガムから車で30分ほどの場所にあるとは感じさせない、のどかな田園風景だった。同じ島国でも、日本ならこうはいかず、もっとごみごみした様相だろう。何が違いを生み出しているのだろうか。都市政策なのか、観光政策なのか。それらとは違ったまた別の要素か。

残っている城壁とゆっきーを比べると、その規模の大きさがよく分かった。ここはグッドリッチ城とは違って、観光客も絶えず見かけた。

これは、歩いていると目に飛びこんできた、鎖でつながれたクマの置物。16世紀の城主が、自らの家の紋章の一部を表したものという。

建物の中から。窓枠は残っていたものの、吹きさらしになっていた。

ここでも土産物店に寄った。今回の新たな発見は、ご当地もののモノポリー。真ん中はストーンヘンジが箱に描かれていたが、上のものは、複数の絵とともに城が「Castles」として、ひとくくりにされていた。中身は確認できなかったが、ボードゲームとしても別バージョンのようだ。Castlesのほうはここケニルワース城ではなく、グッドリッチ城が題材に選ばれていた。モノポリーに取り上げられるほどとは思えない、ひなびた雰囲気だったのに、分からないものだ。

そういえば、以前、南米を一人で旅行したときの自分のお土産に、ペルー版のモノポリーを買うか、別の現地ボードゲームを買うか迷った挙句、現地のものを買って帰ったことがあった。飛行機の預け荷物にはしづらいほどの大きなサイズで、機内に持ち込んで帰ってきた。その名も「モノペルー」(MONOPERU)。デザインも商品名と同じく、丸々モノポリーのパクリで、スペイン語の説明書しかなかったが、遊んでみるとそこそこ楽しかった。

今回はもちろん、モノポリーを買うことはなく土産物店を出て、行きとは違うところから全体像を撮影。平面からの写真で特徴をつかむのは、なかなか難しかった。

ついでにイギリス車の歴史も学ぶ

途中、古城めぐりから離れて、コヴェントリーという都市で交通博物館(Coventry Transport Museum)に寄った。イギリスといえば、産業革命をいち早く成功させ、19世紀には自動車産業が興り、いくつもの名車を生み出しながらも20世紀後半には他国に押され、自動車産業の衰退をたどった国だ。この博物館は無料という情報を得ていて、気分転換がてら、連日の運転疲れを癒す意味でも寄ってみたいと思っていた。博物館は街中にあったため、路上に車を止めて、ゆっきーは留守番をして僕だけ行ってくることに。

ちなみに、交通博物館は、僕が訪れたときは無料で見学できたが、2019年の後半ごろ有料化されたようで、2021年9月現在、入場料が14ポンドかかる。入場券を1度購入すると、そこから1年間、何度でも無料で訪れられるそうだが、地元に住んでいない限り行く機会はなく、旅行者には意味がなさそう。

さて、まずは面白い自転車の展示から。 コヴェントリーはかつて自転車産業が盛んだった時期を経て、自動車産業で栄えたという。イギリスの自動車産業が衰退した際には、この都市も当然あおりを食っただろうが、それでもまだジャガーの本社がこの地に残っており、プジョーの工場もあるらしい。

次は味のあるクラシック車。僕は、8月に訪れたドイツやハンガリーで、旧東ドイツの国民車、トラバントを見て興奮するほどには車に関心があったので、興味深かった。とはいえ、ゆっきーを待たせてあるので駆け足で見て回った。

次に目についたのは、トライアンフの750ccの大型バイク。トライアンフといえばイギリスの老舗メーカーで、僕はいま乗っているバイクを購入する際に、トライアンフの低排気量(400cc以下)を考えたことがあった。しかし、当時トライアンフの低排気量モデルは、インド生産のものしか日本に入ってきていなかったこともあり、検討の対象から外した。そして、最終的に購入したのはイタリア産のベスパのPX200 FL2という、昔ながらの車体を持つ車種になった。いずれはベスパゆかりの地、イタリアにも行きたいと思っていたが、このとき、訪れる予定はまだ立っていなかった。

こちらはパトカー。前回の投稿で紹介した、ペット・ショップ・ボーイズ(PSB)の「So Hard」のプロモーションビデオ(ミュージックビデオ)の冒頭には、「POLICE」の文字とパトランプを光らせた車が走っているシーンがある。中学生のときには食い入るように見ていたPSBのそのビデオも、いま見たら古臭くて時代を感じるが、このパトカーはもっと古い年代のようだった。

そして極めつけ、イギリスが誇る名車のミニが、なぜかドラム缶の上に積まれていた。トラバントは浦沢直樹の漫画「MASTERキートン」で、主人公の平賀=キートン・太一が運転中、非力さをなげいていたのに対し、ミニは吉田秋生の漫画「BANANA FISH」のスピンオフ作品で、長身に成長した中国系アメリカ人、シン・スウ・リンが運転しながら窮屈そうにしていたシーンが心に残っている。

それともう1つ、大学時代の友人が就職後、ミニを買ったものの、故障がちで早々に手放していたことも記憶にある。もちろん、BMWが手がける現行の『大きくなったミニ』(何とも逆説的な)ではなくて、それ以前の旧型のミニの話。別にそれがよいとか悪いとかいうわけではなく、当時は見切りをつけるのが早いな、と思いながら話を聞いた。手間ひまかかりそうなのがベスパとよく似ている。そこがまた愛らしく感じられる部分かもしれない。

それにしても、このミニの展示はレイアウトを面白くしようとしたのか、ただ単に扱いが雑なのか、区別がつかなかった。

イギリスで一番のくつろぎタイム

駆け足で博物館の展示を見てリフレッシュしたあと、アール・シルトンという町にあるこの日の宿へと向かった。博物館からは約30キロとさほど離れておらず、前日までよりもかなり早く宿に着いたおかげで夕食の準備も早くできて、外がまだ明るい17時台には食事にありつけた。ほっと一息、いただきますのポーズ。

食後は、すでに生活感が漂う自室内でくつろぎながら映画「スターウォーズ/最後のジェダイ」を鑑賞。スターウォーズのシリーズとしては8作目で、チュニジアでシリーズ初期のロケ地を訪れたこともあり、チームシマでシリーズを公開順に見ていた。エピソード3(6作目)での、エピソード1~2の伏線の回収とつじつま合わせっぷりが見事だったのに比べると、7作目とこの8作目は実にしょうもない、というのが僕たちの偽らざる評価だった。しかし、ロバ太郎は熱心に見入っていた。

翌朝、今度は宿が契約しているネットフリックスで、河瀬直美監督の映画「あん」を鑑賞。まさかイギリスの動画配信サービスで邦画が見られるとは思ってもいなかった。本当に便利な世の中だ。スターウォーズとはまったく趣が違っていて、しみじみと心に染み入る作品だった。

朝のキッチン。今回、泊まった宿は洗濯も自由にできて居心地がよかった。気分を一新して、引き続き古城めぐりへ、そしてイギリスの東海岸へと向かった。

旅の情報

今回の宿

YHA ワイ・バレー
2段ベッド1室 29ポンド(約4,300円) 素泊まり
設備:専用バスルーム、共用キッチン 駐車場、Wi-Fiあり
予約方法: Hotels.com
行き方:ワイ渓谷は車、バイク、自転車でなければアクセスできないような場所にある。その分、自然環境はいい。
その他:YHAはYouth Hostel Associationの略。建物の外観は味があるものの、中はよくあるタイプのユースホステルで、いわば学校に泊まるような雰囲気だった。

Jaylets Homestay Earl Shilton
ダブル1室 33.3ポンド(約5,000円) 素泊まり
設備:共用バスルーム、共用キッチン 洗濯機、駐車場、Wi-Fiあり
予約方法:Booking.com
行き方:ここも基本的には車で訪れるところ。アール・シルトンには一応、バーミンガムやコヴェントリーといった都市から電車やバスでアクセスできるが、複数回の乗り換えが必要。ワイ渓谷と違って自然環境に優れているわけでもなく、公共交通機関でわざわざ来る場所ではない。
その他:部屋は広く、キッチン等も使い勝手がよくて、イギリスで最も快適に過ごせた。リーズナブルだと思う。その分、いわゆるブルーカラーの出張者がよく使っているような雰囲気もあった。
Jayletsブランドは、この地方でアパートホテルやシェアハウスを展開しているようで、他の地方でもないか探したが、広域展開はしていなかった。このアール・シルトンの宿は2021年現在、Booking.comで予約できなくなっている。