イギリス その2 まずは「Go West」ではなく南部から!チョーク岩を見にいく

9月下旬、10月頭に続いてイギリスにやってきた。

前回、9月のイギリスの投稿では触れていなかったが、イギリスは中学生のころからあこがれの国だった。そうはいっても、よくあるようなビートルズにあこがれて、というわけではない。僕が過ごしたバブル期の中学時代、ビートルズはすでに、英語の時間で「イエスタデイ」を習うような立ち位置になっていて、素直な少年にとっては勉強の対象か、あるいは大人の権威を示すような存在であり、あこがれからは程遠かった。

僕がイギリスにあこがれたきっかけは、イギリスの男性2人組のアーティスト、ペット・ショップ・ボーイズ(Pet Shop Boys、PSB)の音楽に触れたことだった。代表曲「ゴー・ウエスト」で知られるPSBは、ボーカルのニール・テナントがゲイであることを公表していて、ゲイカルチャー、最近の言葉でいえばLGBTQ音楽の大御所として長年、活躍している。しかし、僕が聴きはじめたころは、そうしたセクシャリティはまだカミングアウトされておらず、LGBTQに対する偏見は今よりも相当強かった。PSBを聴きはじめてから1年後、同じイギリスの世界的アーティスト、クイーンのフレディ・マーキュリーがエイズにより亡くなったニュースは、彼のセクシャリティの取り上げられ方とともに、ショックだったことを覚えている。1990年代初頭、エイズはまだ助からない病気だった。

話がずれてしまったが、イギリスへのあこがれはただ単に、前回のイギリスの投稿でも少し触れたPSBの「So Hard」という曲のプロモーションビデオ(ミュージックビデオ)を見て、イギリスの都市と郊外らしき風景に、理由もなく心の底から憧憬が湧き上がってきたのが出発点、というところ。その思いは漠然としたもので、何としてでも訪れたいというほど強い気持ちでもなく、だからこそ、これまでの人生でイギリスを訪れる機会は1度もなかった。その一方で、若いころに抱いたあこがれは、年が経つとともに少しずつ薄れていってはいたものの、消え去ることもなかった。

前置きが長くなった。イギリスでは、まずはアイスランド、アイルランドに続いてレンタカー旅から始まり、グレートブリテン島の南部、中部をぐるっと回り、車を返した後はロンドンに滞在する予定にしていた。車では世界遺産のストーンヘンジをはじめ、この島にあるスピリチュアルなスポットへの訪問をメインに考えていた。

今回は、ロンドン・ルートン空港から島の南部にあるビーチー岬(ビーチー・ヘッド)の断崖を経て、ソルトディーンまでの道中を紹介。

3度目のルートン

アイルランドから無事、ルートン空港に着き、今度は入国審査どころかパスポートチェックもないことに驚きながら、路線バスに乗って空港から駅へ。イギリスとアイルランドは出入国の協定を結んでいて、両国民はお互いの国の空港を自由に行き来できるらしい。チームシマのような非EU圏内の国籍の人に対しては、イギリスからアイルランドの空港に入る際は審査があるものの、逆のアイルランドからイギリスでは入国審査がないという。

そんなことは知らず、すでに3度目の滞在となり、なじんできてさえいたルートンの街で晩ご飯。この日、入ったのはタイ料理店「Nakorn Thai Restaurant」で、前日のダブリンでのベトナム料理のランチといい、なぜか東南アジアづいていた。白いラベルのシンハー、緑のチャーンとタイブランドのビールに囲まれてホッと一息。

今回の注文は、ゆっきー定番のパッタイとグリーンカレー。国際空港のおひざ元という地域柄か、移民が多いのか、ルートンの料理店はアジアを中心に多国籍で、バラエティーに富んだ印象があった。この店の料理のクオリティは非常に高かった。会計もそれなりに高かったが。

そして、アイルランドに持っていかない荷物を詰めたバックパックを預けていた「ルートン・ホテル・レジデンス」にまたもやチェックイン。チームシマの定宿と化していた。

明けて翌日、宿を出発。この街には2度と戻ってこないことに少し寂しさも感じつつ、バスで再び空港へ。空港近くのレンタカー店で車を借りて出発する算段だった。

今回、借りたのはアイスランドでもお世話になったフィアット製の小型車。前回はパンダで、今回は500(チンクエチェント)と車種こそ違っていたが、サイズ感がまったく同じなため、アイスランドでのレンタカーがらみのトラブルを思い起こさせるのには十分だった。乗車前のチェックがつい入念になった。

南を目指して

とはいえ、何事もなく出発。ルートン市街にあった中華系スーパーマーケットでカップ麺などの食材を仕入れて、南部の景勝地、セブン・シスターズの方面へと向かった。ちなみに、南へ行こうというのは、英語で表現するなら“Go south”だが、これは熟語として「悪い方に向かう」という意味もある。

フィアット500は、パンダとは違って運転中の騒音が気にならず、道中、気持ちのいい景色が続いた。ビーチー岬はセブン・シスターズの東隣に位置していて、車を借りてから3時間半ほど、17時過ぎに到着した。

夕日に映えるビーチー岬。ドーバー海峡をフェリーで渡ったときに見た、チョーク岩の「ドーバーの白い崖」とよく似た雰囲気だったが、間近で見るとより迫力があった。それもそのはず、ここビーチー岬は最も高いところで海面から162メートル。海に面したチョーク岩の崖では、イギリスで最も高さがあるという。

チームシマのメンバーと、ビーバーのごんばはじめで記念撮影。

逆からの景色。ロバ太郎と、カメラを手にしていた人が影絵のようになっていた。

崖から少し離れた場所から。自然が美しく、来てよかったとしみじみ思った。

太陽が雲に隠れた瞬間を狙って、アホ面でも撮影。

木製の看板には「Cliff Edge」(崖っぷち)という言葉とともに、崖から人が落ちるピクトグラムが描いてあり、若干の物々しさも。地元の親子連れらしき人たちの姿も見えて、イギリスにいながらPSBやクイーンもすっかり忘れて、のんびりした。

ふと視界が開けるとき

旅の間中、大きな自然に包まれていると、自分自身の思いに従って肩ひじ張らずにやっていけばいいんだ、と思い至る瞬間があった。PSBのニール・テナントやクイーンのフレディ・マーキュリーの例でいうなら、自分にとって非常に大事であろう、セクシャリティの部分を隠しながら生きていく人生が窮屈すぎるのは、容易に想像できる。近年、吹っ切れたように女性化が著しい氷川きよしを見ていると、すがすがしい思いになってくる。

それと同じように、収入を得るために気乗りしない仕事をすることや、「こうあるべきだ」「こうあることが素晴らしい」という価値観で行動すること、それにより他人を判断することもまた窮屈だと思う。固定観念、例えばアフリカをただ旅するのは道楽以外の何ものでもなくほめられない、けれども開発援助に携わるのは素晴らしい、といった見方に縛られる人生はもったいない。それよりも、その人がやりたいことに突き進み、あるいはその姿を見ているほうが、よほど気持ちがいい。

しかし、僕が旅している間、そこまで思えるようになるには、まだしばらく時間を必要としていた。この頃いつもどこかで意識していたのは、ゆっきーと出会わず、前の仕事を続けていたら今ごろどうしていただろうか、ということだった。気ままさとは対極にある生活だっただろうか。遠く離れた日本で心を半ば殺しつつ、あくせく働いていただろうか。仕事を辞めて長旅に出ようとは、思いもよらなかったのは間違いない。考えても仕方ないとは分かっていても、頭の中に浮かんできていた。

さて、岬を思う存分に見た後は、この日の宿泊先へと移動。西に車で40分ほど離れたソルトディーンという街に宿泊先を予約していた。この旅で初めてのパターンとなる、高齢者がホストになっている家の1室。着いて家の中に入ると、病院にいるときのような臭いがそこはかとなく漂っていた。家の主人の男性は親切だったし、部屋はきれいだったものの、この臭いだけでゆっきーがしんどそう。晩ご飯を作って食べて、早めに眠りに就いた。

そのおかげもあってか、翌日は早めに準備ができた。そして、ゆっきーが早く出発したいと急かした。イヤな臭いも、時によっては僕たちチームシマを“Go south”とは逆の方、つまりいい方向へと導いてくれているのだろうか。

そして、この日こそは“Go west”、意気揚々と西の方へ、イギリスのハイライトとして期待していたストーンヘンジへと繰り出した。

旅の情報

今回の宿

ルートン・ホテル・レジデンス
ダブル1室 55ポンド(約8,200円) 素泊まり
設備:バスルーム、キッチン、調理器具、コンロ等 Wi-Fiあり
予約方法:Booking.com
行き方:ナショナル・レールのルートン駅から南に徒歩15分。ロンドンからルートンまでは鉄道のほか、ヴィクトリア・コーチステーションなどからバスが出ている。
その他:チームシマで計3回泊まった。ルートン市内で大荷物も預かってもらえる宿泊先としては最安値圏だった。多少、くたびれ感はあったものの、設備はそろっており、快適に過ごせた。バスターミナルや駅からも徒歩圏内で使いやすかった。

Room in Ground Floor Flat, Brighton, East Sussex
ダブル1室 55ポンド(約8,200円) 素泊まり
設備:共用バスルーム、共用キッチン、室内洗面台 Wi-Fiあり
予約方法: Airbnb
行き方:宿があるソルトディーン(Saltdean)は、イギリス屈指のリゾート地、ブライトンの中心部から東に車で約20分。ブライトンからはバスでもアクセスできるらしい。ロンドンからブライトンへは鉄道で約1時間、割と近くてバスでも行くことができる。
その他:高齢の男性は1人暮らしのよう。アパート1階にあり、大荷物があるときは楽で、車も敷地そばの道路に無料で止められた。部屋はそこそこ広かったが、臭いが気になって落ち着かなかった。

訪れた食事処

Nakorn Thai Restaurant
注文品:グリーンカレー、パッタイ、ビール2本 26ポンド(約3,880円)
行き方:ルートンの市街地にあり、駅から南に歩いて約10分。
その他:店内はムーディな雰囲気。人気店のようで、トリップアドバイザーで何度も表彰を受けている。