モロッコ その4 首都ラバトは決断の地! 別離へのカウントダウン開始

観光地のおもむきが強かったモロッコの古都、フェズから首都のラバトに向かった僕たちチームシマの2人。ラバトを訪れる前は、他の個性ある街に隠れてあまりイメージがなく、ゆっきーに至っては、ここモロッコでも写真のモデルとして活躍するチームシマのチームメイト、ロバ太郎をサッカー男子の日本代表で長年、活躍する長友佑都に掛け合わせて「ロバ友ラバト」と呼ぶほど。実際に訪れるとあまり観光地化されておらず、歴史と現代がマッチした楽しい街だった。そして、ゆっきーはここラバトで、僕たちの旅に大きく影響する重大な決断を下した。

首都なのにコンパクトな街

フェズからは、昼を挟んでバスに乗り続けてラバトのCTMの長距離バスターミナルに到着。20分ほど歩いてトラム乗り場に行き、1度乗り換えてメディナ(旧市街)へと向かった。今回もフェズと同じく、メディナの中に宿を予約していた。

ありがたいことに、「Médina Rabat」と名付けられたメディナ最寄りの停留所があり、そこからはあまり労をかけずに宿までやってこれた。宿はしばらくぶりでエアビーアンドビーで予約していて、スーク(市場)の並びにあった。目印がなく最後の最後は迷ったものの、無事チェックイン。ホストの息子という男性が僕たちの部屋の3階まで案内してくれた。

妻のゆっきーとともに昼ご飯へ。この日も最近の例に漏れず、昼下がりになっていて、メディナを抜けてすぐのところにあるモロッコ料理店に入った。外観はきちんとしたレストランという趣で、かなり値が張りそうだったが、グーグルマップのレビューでは「お手ごろ」ということで、ゆっきーがチェックしていた。

案内された窓側の席は、メディナの城壁が望めるエレガントな雰囲気……とはいかなかった。城壁の手前は道路に沿って工事中らしく、無粋な仮囲いやタワークレーンが見えて、奥には中高層の建物もあった。これはこれで奇観といえそう。

この店はやはりウェイターが正装のきちんとしていて、今回もタジンを注文。ゆっきーが苦手とする、適度な分厚さのあるタマネギの炒め物がタジンのてっぺんに乗っかっていて、僕がありがたくいただいた。ゆっきーによると、食べようと思えば食べられなくもないが、輪切り、くし切り、角切りなど、どんな切り方になっていても受けつけにくいらしい。

そして、何度目のことになるのか分からないが、タジンはこの店でも薄味。ぜいたくな悩みとは分かっているものの、そろそろモロッコ料理にも飽きがきていた。

食後は新市街にあるラバトの目抜き通りまで歩き、歴史のありそうな中央郵便局の建物の横を通りつつ、モロッコ国営鉄道ONCFのラバト・ヴィル駅(Rabat Ville)へ。ここで2日後のマラケシュ行きのチケットを取り、いったん宿に戻った。駅の構内には見やすい時刻表があり、手続きもすんなりとできた。

途中、メディナに入る直前にあるジューススタンドに寄ってフルーツジュースを買った。メディナに入ったあとの道端の露店で売られていた馬のおもちゃが実に愛らしかった。

「ロバ友ラバト」ならぬウマ友を見つけたロバ太郎だったが、ちょっとした風圧に負けたのか、パタリと倒れてしまった。

ラバトは、メディナも新市街も歩いたりトラムに乗って行けたりする距離にいろんなものがコンパクトに集まっていて、かなり回遊しやすそうだった。

歩いていて楽しかったスーク

今度は僕1人でメディナを見て回ることに。すると、スークの中でここ最近、ずっと探し求めていたコイルヒーターを発見!コイルヒーターというよりはむしろ、それよりさらに使い勝手がよさそうな電気コンロだった。しかも、うれしいことにいくつかのサイズがあり、最も小さなものならば旅の間、十分に持ち運べそう。価格も、最もコンパクトなもので95ディナール(約1,100円)の値札が貼られていて、ヨーロッパの感覚からすれば破格だった。

もうこれだけでラバトに来たかいがあったというもの。念のためゆっきーに報告してから買うことにして、散策を続けた。

ラバトの旧市街には居住地区、やや古さの目立つスーク、その両方が混同しているエリアに加えて、日本の感覚でいえば再整備された市場のような真新しいスークも。特に印象的だったのは、ここでも歩いて回るのにちょうどいい規模感と、フェズと違って割と直線的で迷いにくい道だった。売られているものは生活用品と土産物のバランスも取れていて、僕たちのように長期間、旅をしているバックパッカーにはおあつらえ向き。僕はラバトのメディナがすっかり気に入った。

こちらは、メディナを出てすぐの通り沿いにあったタコス屋さん。

TACO……S

となるところが、シロウトの作りだった。それとも、あえて狙ってやっているのだろうか。もしそうだとしたら、何という高等テクニック!

宿に戻ると、いまさらながら壁の装飾タイルが目についた。ゆっきーは僕の外出中、アフリカから帰国する行程を考えていたようだった。僕自身は、ラバトでは西アフリカのブルキナファソのビザが取りやすいという情報を得ていたので、手に入れようかと思ったものの、焦らずに先の国で取得することにしても大丈夫そうだったので、ここで取るのはやめにして、親しみやすいこの首都をもっと楽しむことにした。

ラバトのいまと伝統

翌日、昼ご飯を食べに出かけた。最初は「地球の歩き方」に載っている店に行こうとしたものの、工事中で途中の道路が封鎖されていたため、別の店に。その「Pause Gourmet」が久々に「当たり」と思わせる店だった。

メニューにあった、牛肉とチキンのクスクスを注文。タジンとともにモロッコを代表する料理、クスクスは、イスラム教の安息日の金曜日に食べるのが習わしらしい。モロッコに来て7日目にして、ようやく最初のクスクスにありつけた僕たちは、2種類の肉を頼んだはずだったが、やってきたのは2皿とも牛肉のクスクスだった。まあ、外国あるあるだなあ、と思いつついただくと、おいしくて食べやすく、ジュースも生絞りでこれも素晴らしい味。客になついている猫の存在もかわいらしかった。

このあと、メディナに戻って電気コンロを探した。金曜日とあって、開いていたのはたいていが露店で、前日、電気コンロを見つけた店は閉まっていた。そこで、前日にも訪れたジューススタンドと、露店のケーキ屋にそれぞれ立ち寄り、持ち帰りをゲット。ケーキ屋はショーケースの中に大きなハチが何匹も入ってきていて、いかにも甘そうな雰囲気だった。

宿に戻って屋上まで行き、カフェタイムをしていると、アザーンが聞こえてきた。イスラム教の国に行くと、どの街にいても聞こえてくるのがこのアザーンだが、この宿はすぐ近くに礼拝施設かスピーカーが複数あるようで、大音量で聞こえてきた。音に引き寄せられつつも、音の大きさに参った感じのロバ太郎。

カフェの後、再び電気コイルを見にいくと、店がオープンしていて、いくつか比較して温度調節機能付きのものを購入。電気コイルを宿に置いて、今度は僕1人でトラムに乗って出かけた。

ちなみに、モロッコでトラムがあるのは、首都のラバトと最大都市のカサブランカだけ。車両はかなり新しかった。モロッコの都市の公共交通で新車に乗れるのはトラムだけらしい。実際に、ラバトの公営バスはたいてい、窓ガラスが割れていてボロボロだった。ラバトのトラムでは、乗ると必ず係員が検札にやってきて、不正乗車されないようチェックするのがしきたりになっていた。

このとき出かけた先は、新市街の外れにある「ムハンマド5世の霊廟」と「ハッサンの塔」。この塔はトラムからも眺めることができた。12世紀末のもので、未完ながら高さ44メートルあるらしい。現代に直すと14階建てのマンション相当で、時代を考えると素晴らしい技術力だ。

モロッコの12世紀末はムワッヒド朝の時代。受験勉強で世界史を学んだ人なら、その名を知っているかもしれない。僕にとっては、ムワッヒドとかムラービトとか、王朝の特徴の違いも分からなければ、受験以外には何の役に立つのかさっぱり分からないまま詰め込んでいたムダ知識として、かろうじて記憶の片隅に残っていた。

そんなハッサンの塔は、行ったタイミングが遅かったのでもう閉まっているかと思ったものの、ギリギリで閉門していなくて、ライトアップが始まるタイミングを見ることができた。夕暮れ時に訪れると赤く夕焼けがかかった雲で幻想的な光景になっていた。とても空気感のいい広場で、ずっと居続けたいくらいだった。

ムハンマド5世の霊廟は塔と同じ敷地内にあり、こちらは1973年完成の現代建築。フランスからモロッコの独立を勝ち取った元国王や前国王などの石棺が安置されているらしい。すでに中に入れない時刻になっていたが、そこから帰ろうとしている人たちの姿が引きも切らず、現地の人たちにとって重要な施設であることがうかがえた。

アフリカの旅を左右する決断

トラムでメディナまで戻り、前の日から気になっていたタコスを買いに出かけた。南北を貫くメインの通りを、地元の人が多くなる北のエリアまで行くと、何軒かの露店のタコス屋が散らばっていた。その中でも客が多くにぎわっていて、注文しやすそうな雰囲気の店の前で足を止めた。

しかし、後から他の客が続々と注文して、僕のほうは、まごまごして注文するタイミングを逸し続けていると、英語を話せるおばさんが「自分から言っていかなくてはダメよ!」と後押ししてくれた。

子どものころ、母親や祖母が自分たちの店を営んでいた市場で、僕は駄菓子屋の軒先に何軒か並んでいたアーケードゲーム機を見にいくのが大好きだった。そして、ただゲーム機の前で、他の子どもたちが遊んでいるのをずっと見ているだけで、自分では決して遊ばなかったことを、ふと思いだした。

今となっては想像すら難しいだろうが、ゲームセンターが不良のたまり場とされ、アーケードゲームが大人から敵視されていた時代。躾が厳しかった僕の母は、僕が市場でゲーム機を眺めているのを見つけただけで叱り、連れ戻すのが常だった。僕は、母に見つかる恐怖と戦いながら、それでもゲーム機を見にいくのが精一杯で、小銭を投入して遊んでいるのがバレた日には、母からどんな叱られ方をするのか、想像したことさえなかったかもしれない。

結局、引っ越して市場に行く機会がなくなるまで、1度もアーケードゲーム機で遊ぶ機会はなかった。幼いころ培われた自分の本質が今でも残っているような気がして、なかなか抜けきらないものなんだな、と痛感した。

さて、そんなタコス屋で勇気を出してタコスとパニーニを注文してみたものの、英語はやはり通じず、フランス語かアラビア語のみという環境。それでも何とか注文したものの、この先、訪れる予定の西アフリカの国々のことを考えると、多少なりともフランス語が使えるようにならないと厳しそうだとも思った。

宿に帰って早速、タコスとパニーニを開けてみたら、両方とも手のひらサイズはあって、かなり大きかった。タコスは碁盤状に焼きが入った右のほうでスパイスのきいた鶏肉入り、パニーニは左の楕円形でツナがメイン。両方とも、とてもおいしかった。

この日、ゆっきーはアフリカから日本に一時帰国する日取りを決めて、僕はゆっきーのため飛行機のチケットを取った。アフリカを発つ日はおよそ1か月後の12月12日。

「一緒にアフリカの旅を続けへんの?」
「一緒に日本へ帰ってもいいんだよ」
「ここまで来て帰るのはもったない。帰ったらどこかで働くことを考えなあかんし、2度とここまで戻ってこれんと思う。もともと、僕が最も旅したいエリアがアフリカのマイナーなところやったし」
「また南アフリカかナミビアか、アフリカ大陸の南のほうで再合流すればいいか」

そして、僕はゆっきーに対して、今まで僕のお金で旅をしてきたので、お金を使うことに対して特に何とも思わないのだろう、次に合流するときには渡航費用は自分で用意するくらいの気概は見せてほしい、と話した。そこからはいくぶん、ゆっきーの僕に対する当たりが柔らかくなった。

そして、この日は寝る段になって、僕に腹痛が起こった。何かの食あたりかもしれなかったが、よく分からず、対処の仕方も浮かばない、という状況になった。いったん眠りについたものの、おなかの痛みで起きだすと、ゆっきーが日本から持ってきていた腹痛用の薬を飲ませてくれた。それでも痛みは収まりきらなかったものの、気づかないうちに眠ることができた。

1か月後からの西アフリカ1人旅が正式に決まってしまい、精神的なものがおなかに影響を及ぼしたのかもしれない。「ロバ友ラバト」と呼ぶことから始まったこの街は、僕たちチームシマにとって、何かと思い出深い地となりそうだった。

翌日、ラバトからマラケシュに向かう日は、9時45分発の列車に乗ることになっていた。朝、出発準備をして、まだ閑散としたスークを抜けて鉄道駅へ。いつも時間ギリギリの僕たちチームシマにしてはめったにないことに、列車が来る予定の1時間前に駅に着き、カフェでコーヒーを飲みながら待った。ゆっきーは終始上機嫌にみえて、腹痛は収まったもののどうにも気分が晴れない僕とは対照的だった。

列車に乗る時刻が近づいてきて、ホームに降りて、ほぼ時間通りきた列車に乗り込んだ。2等車で、僕の隣の席の男性がずっと突っ伏したまま寝ていたのが気になったのと、荷物を置く場所が少なかったこと以外は快適に過ごせた。

列車は途中、カサブランカを過ぎると大西洋に沿ったルートを外れて内陸のほうへと入っていき、車窓からは乾いた大地も見えるように。2等車は人の乗り降りが激しく、モロッコの人たちの生活の一端が見られたような気がした。

旅の情報

今回の宿

MOROCCAN STYLE ROOM
1部屋 2泊 5,613円 素泊まり
設備:共用バスルーム、共用トイレ Wi-Fiあり
予約方法:Airbnb
行き方:ラバトのトラム・ライン2の停留所「Médina Rabat」から南東に歩いて3分。メディナの中にある。
その他:トイレとシャワーが僕たちの泊まっていたフロアの1階下の2階だったのと、部屋が少し寒くて窓からあまり光が入らなかったのが少し残念だったが、清潔だった。到着した日は、他にも2組泊まっているとのことで、複数の部屋を提供していたらしい。なぜか部屋を撮るのを忘れていて、屋上の写真しか残ってなかった。2022年2月現在、予約の受付を休止中。

訪れた食事処

Restaulant Dar Naji
注文品:タジン2つ、パナシェ、オレンジジュース 146ディルハム(約1,700円)
行き方:トラムの停留所「Médina Rabat」から西に歩いて7分。
その他:本文にも書いたが、雰囲気からするとリーズナブル。料理を注文すると、ジュースなり水なりがついてくるシステムなのがありがたかった。

Pause Gourmet
注文品:クスクス2つ、バナナジュース、ミックスジュース 180ディルハム(約2,100円)
行き方:ONCFのラバト・ヴィル駅から南東に歩いて2分。
その他:洗練された雰囲気で客は女性比率が高く、かなりおしゃれだった。

Le Gout Du Fruit
注文品:バナナジュース、アボカドジュース、オレンジジュース 2回で計38ディルハム(450円)
行き方:トラムの停留所「Médina Rabat」から東に歩いて1分。東西の大通りとメディナに続く南北のメイン通りが交差する四つ角にある。
その他:立地がよく、味も良くて2回訪れた。デザートも売っていたが、こちらはおいしそうに見えず。

Juice Time
注文品:ケーキ2個 11ディルハム(130円)
行き方:メディナの入り口にあるラバト中央市場前にある露店。
その他:本当の店名は分からず、「Juice Time」というポスターがコンテナ風の店の上に張ってあり、それを店名とした。ジュースもカウンターの後ろに置いていたが、ケーキがメインのよう。アラブにありがちな、ひたすら甘いスイーツだった。

Panini Bnin Ou Bayen Chno fih
注文品:タコス、パニーニ 27ディルハム(320円)
行き方:メディナのメイン通り「モアメ・サンク通り」を北上すると左側にある露店。
その他:正式な店の名前は分からず、メニューに書いてあった言葉から引用。西アフリカではこの先、店名もない露店が増えていく。